スポンサーリンク

2007年01月06日

越すに越されぬ大井川

前編中編後編に続き、この話は妄想・・を文章にするのも疲れますね。

都合により、このシリーズはこれで終わります。

魂娑藩の軍団が湯明日田城へ向けて三方から進軍を開始すると、次第にその軍勢が増えて大名行列のような規模になり、我が軍を城の外で撃退するのは無理と見てか、守備側の武田方は砦から退却して城内に篭りました。
合戦の指揮を取る仙台藩は、もはやこの戦に勝ち目は無いと判断し、武田方の軍勢をうち捨てて密かに逃走してしまいました。噂の通り、仙台藩は泰平な生活に慣れ過ぎて、かなり堕落している模様です。

湯明日田城の門までは難無く進めたものの、城門がなかなか開かないため、入城を待つ魂娑藩の隊列が数珠繋ぎになり、しまいには城を一周するほどの長さになりました。

やっとのことで城内に入ると、武田方の軍勢は予想よりも少なく、戦意も感じられません。仙台藩にうまく利用された末に裏切られたという、忸怩たる思いもあるでしょう。
武田家の武具は青と赤との色使いであり、江戸近郊の江伏藩の武具と見間違えそうになることもあります。一方の魂娑藩は、討ち死に覚悟でこの戦に臨んでいるため、全員が白装束に身を包んでおります。

仙台藩が置き去りにした牛の舌の焼物や、ずんだ餅を頬張りながら開戦の刻を待っていると、武田方の陣内から一人の武者が騎馬に跨って走り出て来て、敵陣からはやんやの喝采を受けました。一騎打ちを望んでいるのかと思って名乗ったのを聞いてみると、「堀井岳之輔」と申す名のようです。当方からも、その勇猛な武者に向かって扇や手拭を振って囃していました。

武田家の内情に詳しい者の話によると、彼は元々は甲斐の出でありながら、諸国を回って諸藩の用心棒役に取り立てられておりましたが、剣術に勝てたとしても寄る年波には勝てず、今年限りで用心棒暮らしから隠居するそうです。今後は、故郷で剣術道場を開き、後進の指導に当たるらしいですが、そう言えば、魂娑藩にも一宿一飯の義理があったような気がします。

彼は何やら当方に向かって伝えたいことがあるようで、耳を欹てて聞いてみると、「伴天連の兵などの助太刀を求めるのは卑怯である。ここは日本人同士で雌雄を決しようではないか。」という主旨のようです。
どうやら敵方には、当方の富貴氏が戦線を離脱しているという情報は伝わっていない様子で、これは渡りに船と、承知の旨を返答しました。
 

さて開戦の法螺貝が鳴り渡ると、そのような音を始めて聞いた武田方の雑兵は慌てふためき、当方が放った矢に対抗して攻め返すべきところを、味方の陣内に向けて矢を放つ始末で、その内の一本が武田方の武将に命中してしまったのを切っ掛けとして混乱に陥りました。

武田兵は敏捷な者が多いながら、あまり戦には慣れていないように見受けられます。当方の本陣近くまで寄せて来ても、そのまま突撃して来るのかと思いきや、直前で互いに先陣を譲り合うなど、およそ武士の風上にも置けない軟弱な振舞いが目に付きます。やはり、百姓どもを俄に徴用した雑兵は、戦の役には立ちません。

戦が終わってみれば当方の損害は軽微で、目覚しい戦功を上げた加賀氏が、大将からお褒めの言葉を頂きました。

思い起こせば昨年の暮れ、帆立城に篭って武田家を相手に戦を構えたことがありましたが、我が藩が勝利を手中に収めようとする寸前に、相手の逆襲を食らって味方が総崩れとなり、総大将の家友様に大恥をかかせてしまいました。
魂娑藩士達は皆、その屈辱をいつかは晴らさねばならぬと肝に命じ、家友様の家紋が染め込まれた手拭を懐に忍ばせて此度の戦に馳せ参じたのです。

何とか汚名を濯ぐことができ、幕府からの恩賞も頂けることになりましたが、天下を制するまで戦に休みは無く、次は大坂の岩馬藩が戦を挑んできております。

敵は、遠江の掛川宿の近くの恵古波城に陣を張っている模様です。ここならば、上方から見て大井川を渡る手前なので、いつでも故郷へ逃げ帰れる地の利があります。
当方としては、大井川を渡った所で陣形を整え直さなければならず、その隙に急襲を受ける恐れもあって、かなり不利な状況です。

湯明日田城の戦で深手を負ったために恵古波城の戦には参戦できない者や、武士に相応しくない振舞いを重ねたために参戦を許されない者も多く、当方に利する材料はあまりありません。
さらに心配なのは、佐藤氏は敵方から飛んで来た矢に対して目測を誤ることが多く、傍から見ていても危なっかしくて肝を冷やします。視力が落ちているのか、ただ単に前へ出たい性格なのかは分かりませんが、武田家の事情について妙に詳しいのも気になり、敵方に内通しているという疑いも完全には拭えません。

(終わり)

posted by 雁来 萌 |20:27 | 雑念 | コメント(0) |

スポンサーリンク

スポンサーリンク

コメントする