スポンサーリンク

2012年06月29日

北の国からサンピラー

先日、かもめさんから問い合わせがあり、自分でもあれほど長い(角度が大きい)事例は見たことが無かったので、回答を保留してありました。→道新ニュースにも載ってます。

その後、色々と資料を調べた結果、(まだ少し疑問は残っているものの)「太陽柱」(サンピラー)であろうという一応の結論に達したので、報告・解説します。(かなり長文です)

名寄の市民から職場の同僚にも写真が送られて来てて、あちこちで目撃されたということは局地的な現象ではないという証であり、しかも名寄市民だったら太陽柱は見慣れているはずです。

 
以下は、太陽光が氷結晶の表面で反射して光っていた、という前提で話を進めます。
現象が出現する方向に違方性があるので、水滴のように等方性な物体は原因になり得ません。
成長の初期段階の小さな雪結晶(実体はH2Oの固体である氷)を「氷晶」(ひょうしょう)と呼びます。

なお、ウィキペディアでの太陽柱の説明では、あちこちに正しくない部分があります。日本語が苦手な人は→英文の解説へ。

 
【光の反射・屈折の原理】
・氷結晶の表面に斜めから光が入射すると、その一部は入射角と等しい反射角の方向に進みます。(反射の法則)
・一部はスネルの法則に従う屈折角の方向に屈折して、氷結晶の内部に進みます。
・入射角が大きいほど、反射光は強くなる一方、屈折光は弱くなります。

 
【太陽柱の原理と出現しやすい条件】
太陽柱とは、小さな雪結晶(六角柱や六角板形の氷晶)が空気中に浮かんでいる状態で太陽光が当たり、氷晶の表面で反射された光が目に届く現象です。

何しろ反射する物体は数十μm(1μmは1000分の1mm)という小ささですから、個々の氷晶が浮かんでいることすら認識できない場合もあります。

太陽柱は日出や日没の時間帯に見えやすく、太陽から上方に向かって光の帯が伸びます。
この場合、太陽の高度よりも上方に浮かんでいる氷晶の、下面で反射した光が見えています。(部屋の天井が光っているようなもの)

山の上などから見ると、太陽の高度よりも下方に浮かんでいる氷晶の、上面で反射した光が見える場合もあります。(足元の水たまりが光っているようなもの)

太陽から上方に離れるほど、氷晶への入射角が大きくなるので反射光は弱くなり、仰角が大きい部分に浮かんでいる氷晶ほど明るさは減っていきます。

 
反射光が明るくなるためには、氷晶の姿勢が揃って水平に浮かんでいることが必要です。
氷晶の姿勢が乱雑だと、太陽光が色々な方向に反射されてしまうので、目に届く明るさが弱まって柱は出来ません。
つまり、空中での対流が盛んな状況では太陽柱は現れ難く、風が弱い穏やかな状況で現れやすくなります。

太陽光じゃなくても、人工照明が光源になって上方に伸びる光の帯が現れる場合があり、これは「光柱」(ライトピラー)と呼ばれます。ナイタースキー場の照明によって生じたライトピラーは、ピヤシリスキー場などでよく見られ、氷晶さえ浮かんでいれば裸電球や懐中電灯でも光柱を作れます。

スキー場は寒いから自分の周りにまで氷晶が漂いやすく、夜間は周囲が暗いから反射光が弱くても鮮やかに見えます。

 
【対象事例に関する考察】
さてここからが、楽しい考察の時間ですよ。笑

今回の写真が撮影されたのは6月26日の19:30頃で、この日は高気圧に覆われて風が弱く、氷晶があれば姿勢が水平に揃う条件を満たしていました。

当日の和寒での日没時刻は19:18なので、日没後間もなく撮影したことになり、この時刻には太陽が地平線下2°あたりに沈んでいたはずです。ただし写真には丘の稜線らしきものが写っているので、(丘の仰角は分からないけれど)その稜線よりも数°下にあったでしょう。

 
太陽柱が出現する場合には、反射体である氷晶を落下させた母体となる雲が見えるのが普通です。
でも今回は、雲らしい物体は写っていません。
前夜は放射冷却したし当日は晴れて暑くなった日ですから、(少なくとも目に見える)雲なんて少なかったはずです。

旭川地方気象台の観測によると、当日の平均雲量は0.0でしたが、18時には上層雲の雲量が1(巻雲)を観測しています。
稚内地方気象台では、18時に雲量が2~3で、上層雲(巻雲)と中層雲(高積雲)が観測されています。

巻雲ならば氷晶の空間密度が小さいから、雲自体の存在がほとんど認識できなくても光学現象は起こり得ます。
夏場とはいえ、高高度での気温は氷点下だから、雲の中にある氷晶による反射・屈折によって雲に色が付く現象(彩雲など)はよく起こります。→ここの説明が親切です。

 
当日の21時に観測された、稚内と札幌の上空の気象状況を大まかに調べました。

 気圧  高度  稚内気温 札幌気温
500hPa 5820m   -8.9℃   -9.7℃
700hPa 3120m   +6.4℃   +7.0℃
850hPa 1500m  +15.6℃  +13.6℃

風は弱く、稚内上空では~3m/s、札幌上空では~5m/s程度でした。
湿度は全般に低く、稚内の中層でやや湿っていたのは中層雲に対応しているのでしょう。

700hPaでさえ気温が+7℃くらいあるので、氷晶が存在できる氷点下の気温になる高度というと、600hPa(4300m)あたりまで上らないと無理です。(道新ニュースの記事では「5千~1万メートル」と書かれている)

 
高度4km以下には氷晶が存在できないとしても、例えばここ(@美瑛)に載ってる写真のように、山の稜線の少し上から光の帯が伸び始めているのであれば、たとえ高度4km以上でも遠くにある雲(の中の氷晶)が光っているのだろうと解釈できます。

和寒で撮影された写真では、(焦点距離が分らないから仰角が未知だけど)あまり高そうもない丘らしい稜線のすぐ上から光の帯が伸びているので、少々腑に落ちない訳です。

高度4kmにある雲が稜線のすぐ上から光リ始めていたのだとすると、その雲ははるか遠くに存在していたことになります。
地球には曲率があるので、遠くにある物体は実際よりも低い位置に見えます。隣国で打ち上げた人工衛星(と称する飛行物体)が高度10km以上まで上昇しても検知できなかったというのは、防衛当局の怠慢ではなくて水平線の上にまで顔を出さなかったのでしょう。

地球の曲率を考慮する簡単な計算をしてみると、高度4kmにある物体が仰角0°に見える距離は、およそ240kmになりました。(仰角が1°ならば150kmで、仰角が2°ならば100kmほどの距離)
 
 
名寄から旭川にかけての地域の西側って、幌加内町(母子里、朱鞠内、幌加内)になります。
当日の明け方はかなり冷え込んだ反面、日中は30℃近くまで気温が上昇しました。

地表付近の気温が高い(=空気の密度が薄い)と、仰角が小さい光の経路は上方に曲がります。つまり、地表近くを通る光線は遠方の上空から届いたことになるので、高高度にある雲でも地平線近くの低い位置に見える効果も考えられます。だから稜線のすぐ上から光り始めてた??

でも、気温に関しては翌日の27日も上がっただろ?と言われれば困ってしまいます。

 
当日の気象衛星可視画像を見ると、増毛山地の西海上・積丹半島の北(和寒あたりからの距離は150kmくらい)の日本海に孤立した雲の塊があって、しだいに明瞭になりながら面積を増しつつ接近して、19時には浜益付近に上陸しました。

この雲が氷晶の発生源だったのかも知れません。
ただし、可視画像は低い雲が写りやすいので、高度4km以上まで達していた雲だという保障は無いし、高い雲が写りやすい赤外画像では(解像度が悪いせいか)雲が識別できませんでした。

さらに目を遠くに向けて日本海北部の海水温も調べてみたんですが(笑)、特に説明材料は見つかりませんでした。ちょっと遠過ぎる感じもするし。

 
【結論】
はるか遠距離の高高度にあった巻雲内の氷晶に、太陽光が当たって反射して出来た光の柱が見えた。

 
ではどうして他の日に見えなくて、この日だけ鮮やかに見えたのか?という疑問は残ります。
風が弱くて氷晶の姿勢が水平に揃っていたので、光り方が強かったという要因もあるでしょう。
原因となった氷晶が浮かんでいた空間と自分との間(距離は数百km)に、光を遮るような障害物が無かったし、空気も澄んでいたということでしょうか。
一般的には、晴れた日には空気が汚れて、雨や雪が降った日には空気が清浄になるんですけどね。

 
疑問がひとつ解決したら、新たな疑問が3つくらい発生するというスパイラルに陥っています・・サンピラーだけで、こんなに楽しめるなんて。笑


【参考】
太陽柱:Sun pillar
光柱:Light pillar
雲量:全天に占める雲の割合を10分率で示す。(1~10)
日没時刻の計算:海上保安庁のサービス

posted by 雁来 萌 |21:33 | 気象細事記 | コメント(2) |

スポンサーリンク

スポンサーリンク

この記事に対するコメント一覧
Re:北の国からサンピラー

こんばんは。
詳しく解説していただきありがとうございます。
私が撮った写真は、和寒のアメダスのそば(15メートルくらいしか離れてません)でした。

posted by かもめ| 2012-06-29 22:04

Re:北の国からサンピラー

翌日の記事にアメダスの写真が載ってましたね。
実は、和寒に行った用事というのはそのアメダスでして、7月6日に紀行文を投稿する予定です。

posted by 萌| 2012-06-29 22:36

コメントする