スポンサーリンク

2011年06月10日

サムライブルーの料理人

今年5月に発売になった本ですから、もうご覧になった方も多いかもしれません。
日本代表の海外遠征のとき、7年前から専属シェフとしてチームに帯同している西芳照(にし よしてる)さんが書いた「サムライブルーの料理人」を読みました。

西さんの本
表紙の写真のユニは、南アフリカでのワールドカップが終わったときに選手たちから西さんへ贈られた全選手のサイン入りユニフォームです。
去年の夏、J村に飾られていた実物を私も見ています。

私も知ったのは去年の夏のことなのですが、この本の著者である日本代表のシェフの西さんは、福島県にあるJヴィレッジの総料理長です。福島県の小高町(現南相馬市)で生まれ育ち、高校卒業後に上京して京懐石のお店などで修行をしたのち、1997年のJヴィレッジ開業時に故郷にUターン就職したそうです。1999年からはJ村の総料理長をつとめ、2004年のアジアカップから代表の海外遠征に帯同するようになったとか。

そんな西さんが選手の心と身体を考えて食事の準備をするプロの仕事ぶりや、厨房から見た選手や監督の姿を活き活きと綴ってくれていて、引き込まれるようにして読みました。代表チームの一員としての仕事のことですから、同じく代表チームのサポートスタッフとしてお仕事している総務のツムさんもちょこちょこ登場して、コンササポにとってはそれもまた楽しいです。(残念ながら何か所か、津村さんのお名前「津村尚樹」が直樹になっちゃってるところがあったのは内緒。)
そしてまた、FIFA U-17 ワールドカップ メキシコ2011に備えてU-17日本代表チームが高地順化のトレーニングをしているレポートを見たばかりのタイミングでしたので、南アフリカW杯へ向けてサムライブルーのチームが高地での試合に備えてどんな準備をしたのかのエピソードが出てくるのも、わたし的にはホットな話題でした。
この本の印税は全額西さんの故郷である南相馬市に寄付されるとのことですので、興味ある方はぜひご購入のうえご覧になってみてくださいませ~。


この本の西さんの後書きが「2011年早春 福島Jヴィレッジにて」となっているとおり、西さんが原稿を書いているのは東日本大震災が起きる前のようです。
西さんの後書きのあとに出版社が追記している文章によると、大震災が起きたのはこの本の制作が最終段階に入ったときとのことでした。きっとそれで急きょ著者の印税を全額南相馬市に寄付する旨を書き加えたのでしょう。

だからこの本では、西さんのふだんの職場であるJヴィレッジも、お住まいになっている福島県のことも、こんなことが起きるとはまったく想像すらされていません。福島の食材の美味しさとか、Jヴィレッジの豊かで恵まれた施設など、かつてはあたりまえだと思って受け止めていたものが今はもうそうではないことを知りつつ読むと、胸の奥がチクチクして、鼻の奥がつーんと痛くなりました。

Jヴィレッジのホテルのバイキングで、西さんが南アフリカW杯のときに出したというメニューを楽しんだこと。レストランの外のテラスで西さんが自ら肉や魚を焼いたりパスタをその場で調理して提供してくれていたのは、遠征帯同時の「ライブクッキング」という、チームにとって大きな意味をもつ方法のひとつだったんだと今さらながらわかったこと。
振り返ってみてそれがどんなに貴重な幸せな時間だったのか・・・と今さらながら思うのでした。

実は2年くらい前のことだったかしら。
U-15のクラセンを見にJ村へ行った私は、そこでしみじみ目の前の光景を幸せだな・・と思ったことがありました。
移動の時間つぶしに何か本を買おうと思って、本屋さんでたまたま平積みになっていた文庫本を手に取ったのが「僕たちの戦争」という小説でした。テレビドラマにもなったようですからあらすじをご存じの方もいるかと思いますが、戦時中の1944年に兵隊として飛行訓練中に海に墜落した若者と、2001年に海でサーフィンをしていた若者が入れ替わってしまうという小説です。戦時中の若者の目から見て、現代の暮らしがいかにぜいたくで恵まれているかが描写されているのですが、そんな小説を読んで感傷的になっていたせいか、私は平日のJ村のロビーで、小さな男の子が両親と一緒にたぶんお兄ちゃんが出るサッカーの大会を見に来ていて、あたりまえのようにアイスクリームを買ってもらって嬉しそうにかじっている笑顔に、しみじみと平和と幸福を感じたのでした。
生きる死ぬとは関係のないいわば「たかがサッカー」のためにに、こうして大勢の人たちがここに集まって、たくさんのサッカー少年たちが瞳を輝かしてピッチを駆け回り、おおぜいの家族連れが観戦、応援して賑わっている。考えてみればぜいたくで幸せなことなんだよなあ・・・と、それまで何とも思っていなかったあたりまえの光景に幸せを感じたのが自分でも印象的でした。

そして今回、その「あたりまえ」のように見えた幸せな光景が必ずしも永遠に続くものとは限らないことを、はからずも痛感することになってしまいました。
悲しいことに。

そんなこんなでこの本は私にとって、何層にも思いが膨らむ、ちょっと「グッと来る」本になってしまったのでした。
本の紹介とも回顧録ともつかない変なエントリになってしまいました。


posted by あきっく |23:27 | 日常 | コメント(2) | トラックバック(0)