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2009年12月28日

根雪は遅れつつあるの?

巷では、根雪の開始が遅れているだのと噂され、普段見慣れない現象が起こると全て地球温暖化のせいにして片付けようとする風潮がありますが、ホントに遅れているんでしょうか。
・・というヒネた根性から、北海道内の気象官署での積雪の記録を調べてみました。

一人の人間が人生の中で気象現象を体験できる長さは、せいぜい50年程度であり、しかも古い経験ほど記憶が怪しくなっていきます。
そのような観点も考慮して、気象現象の「平年値」は「30年間の平均値」と定義されています。つまり、同じ現象を毎日観測し、根気よく30年間も続けないと平年値は求められないことになります。

なお「根雪」は、正しくは「積雪の長期継続期間」または「長期積雪」(略称)という用語で呼ぶことになっています。(聞いたこと無いよね)

道内では、観測の自動化(省力化=人件費の節約)が進んで有人の気象官署が減ってきており、「寒候期現象」(霜・結氷・初冠雪・積雪・長期積雪)の目視観測を中止したため、これらの観測値の無い官署が多くなりました。

札幌管区気象台の露場(2009.12.20)
露場の機器
踏み台の右が雨雪量計、左が雪尺、奥が積雪深計です。

冬期の現象を扱う場合には年の区切りが「秋春制」となり、今の寒候期(2009年秋~2010年春)を「2010年」と呼びます。
現在も上記の寒候期現象を観測している地点は、9ヶ所(稚内・旭川・網走・札幌・帯広・釧路・根室・室蘭・函館)だけです。(昔は22ヶ所あったんだけど)

札幌管区気象台のHPの北海道の統計データページから、各寒候年における積雪と長期積雪(根雪)の初日と終日とを読み取りました。

そして、各年における観測値(日付)が、平年値と比較して早いのか遅いのか、それらの日付が長期的に早くなる傾向があるのか遅くなる傾向なのか、を解析する目論みです。

 
今の寒候期における積雪の初日は既に全ての地点で観測されていますが、根雪については稚内での初日が確定しているだけです。
根雪というのは、積雪が30日間以上続かなければならない現象なので、まだ初日を決められない地点がほとんどです。(*注)

日付による統計の場合、平年値より早い場合はマイナス、遅い場合はプラスの数字で表します。
例えば今年の稚内の根雪の初日が11月16日で、これは平年値(11月27日)より11日早いから、「-11」と表します。


上記のページには20年分のデータがあり、毎年の観測値が早いか遅いかの経年変化をグラフ化してみますが、全地点分を表示してはいられないので、全地点での平均値を下図に示します。

図中で、赤色の折れ線が毎年の根雪の初日、青色の折れ線が根雪の終日です。
根雪の変化傾向
それぞれの折れ線について、回帰直線を同色の破線で加えてあります。

この程度のデータ数(年数)で回帰式を求めて経年変化の傾向を論じるのは危険がありますが、初日は早まる傾向(19年間で7日)、終日はわずかに早まる傾向(19年間で2日)が見られます。(標準偏差:6~7日)

つまり、根雪の初日は早まる傾向があり、終日はほとんど変わらないことが分かりますから、初日が早まって終日が変わらないのなら、根雪の期間は長くなってきていることになります。
これは冒頭に書いた噂とは逆の傾向で、地球はむしろ寒冷化(氷河期)に向かっていることになります・・か?

そもそも、地球全体の長期的な現象を、北海道内における限定的な現象を基にして(大胆に)推測すること自体が無謀な試みに違いありません・・もっと慎重に、謙虚にならねば。

 
では今年はどうなるんだろう?・・と思い付くのが普通で、現段階で各地点における根雪の初日として可能性がある候補日を調べ、平年値と比べてみました。

今後の融雪/積雪によっては大幅に変わる可能性もありますが、今のところ、根雪が平年より早い地点が6ヶ所、遅い地点が3ヶ所あります。

今後は、早い地点でも遅くなる可能性があるし、遅い地点はもっと遅くなる可能性があるので、全体としては遅れる側にシフトしていくでしょうけど、全地点の平均で最終的にプラスになるのかマイナスになるのかは、まだ分かりません。

おおまかに、日本海側の地域で遅く太平洋側の地域で早い、という分布は見られます。


次に、「積雪」は早まっているのか遅くなっているのか、も調べました。
積雪の変化傾向
初日はやや遅くなる傾向(19年間で3日)、終日はやや早まる傾向(19年間で4日)が見られます。

ということは、積雪の期間はやや短くなっているのかも知れません・・が、積雪の場合は「積雪状態になった最初の日」と「積雪状態になった最後の日」との間ですから、極端に言うと、その中間は全くの無積雪状態でも構わない訳で、突発的な降雪現象に左右されます。

積雪の場合も、これだけ大きく変動(標準偏差:5~8日)しているデータの回帰式を求めて、その傾きから変化傾向を論じるのは危険な推測でしょう。

 
札幌における積雪や根雪が遅れているという印象を基に、北海道全体でも遅くなっていると拡大解釈して、地球全体が暖かくなっているせいだというストーリーを作り上げられるほど、人間は傲慢な生き物です。

札幌は、人口がどんどん多くなっています。
人口が多くなると車や工場や住宅が多くなり、排出される熱も多くなるし、建物は熱を蓄えるので夜間は冷え難くなります。除雪するから雪面が減ったり黒っぽくなって、太陽光を吸収し易くもなります。

それらの結果、都市域では必然的に気温が上昇する傾向が生じますが、それは地球温暖化とは別な現象であり、「都市化」による温暖化現象です。

「地球温暖化」が間違いない現象だとすれば札幌でもその影響を受けるでしょうけど、地球全体の温暖化と都市化の影響とを分別して評価することは難しい作業だし、地球が温暖化するのに伴って札幌も温暖化する、という保証は必ずしも無いんです。


*注)
統計方法について詳しく知りたい方は、気象庁の「気象観測統計指針」第4章(PDF:866kB)の、4.1.14「統計値の算出方法」を読んで下さい。


posted by 雁来 萌 |20:01 | 気象細事記 | コメント(1) |

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この記事に対するコメント一覧
根雪初日の確定地点を追加:1/18

今冬の根雪の初日が確定した地点を追加します。
これで、道内の全地点で今冬の根雪の初日が確定しました。

【既報】
稚内:11/16(平年より11日早い)
旭川:12/2(平年より9日遅い)
帯広:12/3(平年より10日早い)
網走:12/7(平年より3日遅い)
札幌:12/14(平年より11日遅い)
函館:12/14(平年より1日早い)
室蘭:12/15(平年より14日早い)

【追加】
釧路:12/18(平年より14日早い)
根室:12/18(平年より14日早い)

集計結果と考察については、下記の「根雪の初日・最終結果」を参考にして下さい。
http://www.consadole.net/kariki/article/657

posted by 萌| 2010-01-18 19:21

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