2008年07月10日

<第3話> once more 初入院

【 once more 初入院 】

夏風邪に罹り具合が悪い。熱っぽいのとかは我慢できても食欲ゼロは辛い。
だからあの日、私は札幌の平岸に在る大病院へ行ったのだ。

食事が摂れないと話したら点滴を打ってくれることになった。
「1時間ちょっとかかると思います」 と看護士さんに言われベッドに寝た。
針を刺された後は暇なので少し眠ることにした。



目覚めた私は平成4年に初めて入院を体験した個人病院のベッドにいた。
点滴はもう終了するところだった。
『これは完全に夢だな』 と思いながらナースコールのボタンを押す。
「hirokiさん、もう終わったんだね」 と懐かしい看護士が現れた。

点滴が終わったら昼食まで何もすることがない。
いつものように、病室を出てディールームへ行く。
窓際に3人用ソファーが2つ向かい合っている。
1番奥に座って雑誌を読んでいると、1人、また1人と顔なじみが集まって来る。
毎日パジャマ姿の男女5人には妙な一体感が生まれていた。
たわいもない話や、深層心理の本で盛り上がる。
先生の奥さんでもある看護士長が現れ 「またくだらない話してる!」 と笑う。
5人の中には日本国籍を持つ香港出身の于 (ウ) さんがいる。
「今日はhirokiさんにうちの奥さん紹介する。hirokiさんも奥さんに来てもらってよ」
洗濯物を持って来た妻と待っていると、于さんが美人妻を連れて現れた。
奥さんは北京出身。最低限の日本語を使い、私の奥さんと会話が弾んでいるようだ。

今夜の当直ナースは超オープンなKさんだから
深夜0時、外来ロビーに全員集合するのが恒例である。
その時は5人のほかにも、近い年齢の入院患者達が集まって朝方まで茶話会が続く。

翌日は5人の中にいる女性Nの職場同僚Tさんが
受診に来たついでにディールームへ立ち寄った。
胃の具合が悪く、先生に入院を勧められているそうである。
みんなで 「入院しなよ!」 「毎日楽しいよ!」 と誘う。
それを聞いていた看護士長が 「楽しいって一体どういうことよ!」 と口を挟む。

私は午後1時から道路向かいの歯医者に通うことになっていた。
ちょうどTさんも帰ると言うので一緒に病院を出る。
雨が降っていた。
Tさんが傘を私の頭上に掲げ 「アイアイ傘ですね〜」 と微笑む。

病院の前の横断歩道を渡り切るとTさんはいなくなっていた。
振り向くと、ビルの2Fに在る私が入院していた病院の窓には貸店舗の表示。


あれから既に16年も経ったのか……時の流れとは早いものだな。
私は地下鉄の南平岸へ向かって、また歩き出した。

posted by hiroki |18:41 | 空想短編集 | コメント(3) | トラックバック(0)