2008年05月01日

CONSAISM clasics #45

clasics #45です。思い出深い国際ユースサッカー、忘れられない10分間のロスタイム。


先日行われた「2003北海道国際ユースサッカー大会U-16」を観戦してきた。
ユース年代の選手たちが国際経験を積む舞台として2001年から国内外の4チームで行われていたが、今年は「2002FIFAワールドカップ開催1周年記念事業」ということで、参加チーム数も6チームでの開催となった。
参加チームは地元・北海道選抜と日本代表U-16、ワールドカップ共同開催国の韓国からソウル特別市U-16、ドイツ・ミュンヘン1860U-16に加え、ブラジル・グアラニU-16、そしてスペイン・エスパニョールU-16。コンサドーレ札幌ユースからも北海道選抜にU-18の選手7名が、日本代表にも1名が選ばれた。
最終結果はグアラニU-16が日本代表U-16とPK戦にまでもつれ込む接戦の末に優勝したのだが、8月14~17日の4日間、計8試合(1試合は寝坊して観られなかった)の中でどうしても忘れられない試合があった。それがエスパニョールU-16対日本代表U-16の一戦。その試合のことからまず書き始めたい。

前日、ソウル特別市選抜に引き分けたエスパニョールは、この試合に勝たなければ決勝進出の可能性がなくなる大事な試合だったが、前半6分に日本代表DFのクリアミスをついて先制する。しかしソウル選抜戦よりも遥かにプレーが荒く、ファウルを取られるシーンが数え切れないくらいになっていく。とにかく強く当たり、後ろからでも平気で削り、ボールをとにかく奪うことを目的としたプレー。これが本当に16歳のする試合なのか、と思ってしまったくらいの荒さ。
その結果、前半33分にはイエローカード2枚で早々とエスパニョールの選手が退場となってしまう。数的優位に立った日本代表は押し込むが、守りを固めたエスパニョールDFを崩せず、さらにラフになっていくプレーにお互いの苛立ちが隠し切れなくなっていく。
判定への不満をアピールすることが多かったエスパニョールはその怒りがプレーにもますます顕著になり、後半16分、さらにもう一人の選手がレッドカードで退場処分となる。
そうしているうち、エスパニョールベンチの方から何か物が鈍くぶつかるような音がやまないと思って見ると、ベンチに下がった選手やコーチがそのやるかたない怒りを椅子や壁を蹴ったり殴ったりしてぶつけている。それほどまでにエスパニョールは感情のコントロールができなくなっていて、つまり怒りのあまりに「切れて」しまっているように見えた。
しかしこの退場劇で日本代表は気が緩んでしまったのか、後半27分にエスパニョールが再度相手のミスをつき追加点を挙げる。狂喜するエスパニョール。呆然とする日本代表。
だが、ここから日本代表の大逆転が始まる。途中出場のマイク・ハーフナー(前札幌U-15、ディド・ハーフナー元札幌GKコーチの長男)が左からのクロスに合わせてヘッドを決めると、後半44分にはFKを再びヘッドで叩き込み同点に。
このまま引き分けになるのかと思われた瞬間、第4審判の掲げたロスタイムの表示は「10」。
10分間のロスタイム! 確かに度重なるラフプレーがあったとはいえ、10分は長すぎだろうとも思ったが、ピッチ上の選手たちよりも荒れに荒れて収拾のつかないベンチへのペナルティも含んだとすれば妥当とも思われた。それほどまでにエスパニョールは「切れて」いたのだ。
しかし、9人となり、同点とされてもなおエスパニョールは攻め続ける。シュートが外れ、パスを止められるたびにどん、どん、とベンチを蹴る音が響き、途中交代した選手が今にも審判に殴りかからんばかりの形相になってコーチに止められている。もうこの試合がどうなってしまうのか予想もつかなかった後半49分、エスパニョールDFの頭上を抜けるクロスがゴール前に上がる。そこにいたのはまたしてもマイク・ハーフナー。ヘディングでのハットトリックを決めるゴールが突き刺さり、そのままこの試合をものにしたのだった。

試合後もベンチを殴り、ボトルを蹴り、審判を罵り、怒りの収まらないエスパニョールのあまりにも生々しい、激高した感情の光景に、しばらく言葉も思いも出なかった。彼らは糸が切れた凧のようにふらふらと無軌道なのではなく、暴走する原子炉のように手がつけられない様子だった。どちらにしても「気持ちが切れた」ということには変わりはないのだけど、今まで見てきた「気持ちの切れ方」とは全く違うものだった。
僕が今までよく見てきたのは、試合のどこかで「もういいや」と消極的になってどんどん局面で負けていく選手たちであり、退場処分になったとしても諾々と引き上げる後ろ姿だった。けれどもエスパニョールの彼らはそれとは全く正反対で、何度ファウルをとられてもすぐに納得することはなく、審判に抗議し、それでも収まりのつかない棘だらけの気持ちが余計プレーに現れてしまう姿。
それを「気持ちが先立ってしまう若さ」と言ってしまえばそれまでだし、この試合で見せた彼らのプレーは間違いなく非難されるべきものだけれども、その奥では16歳そこそこにして「気持ちの強さ」を誰よりも強く持つということを知っていて、なおかつそれをきちんとプレーで表している姿が僕には驚きだった。
おそらくスペインだけでなく、フットボール的なヒエラルキーが高い国々においてはそんな「気持ちの強さ」というのはすでに教えるまでもない不文律というか国民性のようなものになっていて、その気持ちが刷り込まれているからこそあんなに強いのかもしれないな、と思ったりもした。そしてこれほどまでに(いい意味での)強い気持ちを持ち続けること、それを絶対に切らさないことというのは、勝った日本代表にも言えることであり、何度でも何度でもあきらめずにアタックを繰り返したからこその勝利でもあったわけで、この大会に参加した全てのチームが僕にそういう「気持ち」がどんどん伝わって溢れてくるような試合を見せてくれた。「メンタル」「タフネス」なんて格好つけた言葉じゃなくて、「勝ちたい」「負けたくない」というただひたすらにまっすぐな気持ち。その「気持ち」を再確認することができた4日間だった。

札幌はジョアン・カルロスが去り、張外龍新監督のもとで立て直しを余儀なくされた。しかも(そして「またも」でもある)崖っぷちでの立て直し。
けれど今チームが崖っぷちにいるとかそういうことはもう抜きにして、純粋に「勝ちたい」という気持ちを見せて欲しいというのが僕の希望であり、そんな勝ちたい気持ちがあるのなら結果にして見せてくれるのがプロであるとも思う。それはスコアだけでなく、試合の中身においても、プレーの一つ一つにおいても。
張監督は「気持ち」を何より重視する。勝ちたい気持ちを誰よりも強く持つこと、それを誰よりも強く見せること、そこからまず始めることが大事だと思う。そんな札幌だからこそ、僕は札幌が好きなのだ。

 気持ち、見せてください。

posted by retreat |23:36 | classics | コメント(0) | トラックバック(0)

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