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息子がサッカーを始めたのでサッカーを観るようになり、1997年のフロンターレ戦でコンサにはまりました。自分自身は全くの素人です。観戦はSB席。ホームゲームの半分はCVSやってます。

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『掏摸(スリ)』 『王国』 中村文則

2017年09月08日

『教団X』 を読んだ後、もう少し 中村文則を読んでみたくなったので、代表作と言われる 『掏摸(スリ)』 を読んでみて、で、『掏摸』 が面白かったので、その兄妹作と言われる 『王国』 も読みました。

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 『掏摸』の主人公は、天才的なスリ師。
 『王国』の主人公は、組織により選ばれた社会的要人に 意図的にセックススキャンダルを作ることを仕事とする女性。
 この2つの小説の舞台は日本の裏社会で、その闇に君臨する正体不明の化物、最悪の悪党として登場するのが「木崎」という男。

 自分で選択したはずの人生が、実は誰かの思惑通りに選ばされていたとしたら・・・。
 しかも、それは「神」などではなく、ただの「悪党」だったとしたら・・・。
 別な道を選択したくても、その余地はない。それも運命なのか?

 木崎は他人の人生や命を、自分が描いたシナリオ通りに動かす事を喜びとする変態で、この2人の主人公を利用し、翻弄し、命までも弄ぼうとするのですが、そこで何とか一矢報いようと必死に足掻く2人の姿を描いたのがこの2つの小説です。

 罠、策略、陰謀、裏切り、理不尽、悪意、恐怖が渦巻く裏世界は 重く、暗く、深いです。
 そのような中で、圧倒的な悪に立ち向かう2人に 果たして生き延びるチャンスはあるのか。

 ストーリーや結末は書きませんが、物語の構成はよく練られており、スリルとスピード、緊迫感のある展開で、エンターテインメント性もあり、グイグイと読み手を引き込みます。
 バカのひとつ覚え、語彙不足で申し訳ありませんが、どちらも面白いです。

 この2作は兄妹編と言われ、舞台や独特の世界観はリンクしていますが、続編というほどではなく、お互いに独立した作品なので、どちらかだけを読んでも問題ありません。
 ただ、両方を読むのなら『掏摸』からをお薦めします。



 ところで、
 「面白い」という言葉の語源は、「面(目の前)」が「明るくはっきりとすること」。そこから転じて 目の前の景色の美しさを表すようになり、更に 「楽しい」や「心地よい」など、明るい感情を表す言葉として広く使われるようになったそうです。(諸説あり)
 読んでいて「楽しい」「興味深い」「心惹かれる」などの意味もあり、古くは「強く興味がそそられ、なんとも言えない素晴らしい感じがする」という意味でも使われたそうですので、「面白い」という表現で許してください。


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07:10

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『太宰 治の辞書』  北村 薫

2017年09月02日

 『空飛ぶ馬』、『夜の蝉』、『秋の花』、『六の宮の姫君』、『朝霧』 に続く 円紫さんと私シリーズの6作目、17年ぶりの作品です。

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 『朝霧』 で完結したと思っていたのですが、作者は《私》のその後と、芥川や太宰の事を書きたかったのでしょうね。
 もしかすると、最初に書きたかったのは芥川や太宰の事で、彼らの事を書くのなら《私》に語らせるしかないと思ったのかもしれません。
 (後で調べたら、あるインタビューの中で作者自身がそのように語っているのを見ました。)

 『太宰治の辞書』 は、「花火」、「女学生」、「太宰治の辞書」の3篇から成ります。日常の中の謎を探るのではなく、『六の宮の姫君』 の時のように、芥川龍之介と太宰治の文学の謎を深く掘り下げています。
 「花火」は、文豪ピエール・ロチの 『日本印象記』 と 芥川龍之介 『舞踏会』 の関係。「女生徒」 は、太宰治の 『女生徒』 と、その基になった有明淑の日記を対比させながら、太宰の創作の謎を解き、その文学性を語ります。「太宰治の辞書」 は、以前の作品では探偵役だった円紫師匠から出された問題を 《私》が解決していくスタイルで書かれており、太宰治が愛用したという辞書をメインに据え、彼の語彙の源を探ります。
 このような謎解きは 本好きには堪りませんね。ここに登場してくる作品を全て読んで、その謎解きの後追いをしてみたくなります。

 大学を卒業して みさき書房に入社した《私》も 今や40代。太宰の頃には初老と言われた年代で、職場では中堅の編集者として活躍しています。私生活においても、結婚して、中学生の息子が 1人おり、一昨年に 埼玉の夫の実家の近くに家を建て、忙しいながらも 平穏な毎日を送っています。 
 《私》の日常生活については殆ど語られていません。夫に関しても殆ど記述がなく、『朝霧』 で登場したあの男性なのかどうかもノーヒントです。《私》が どんな男性と どんな恋愛をして結婚したのか、ちょっと気になりますが、想像するしかないようです。
 しかし、“水を飲むように” 本を読み、文学の事になると目が無く、些細な事に違和感や疑問を感じ、その違和感の謎を解いていく文学探偵ぶりは 大学生の頃の《私》と何も変わっていません。
 そのような姿からは 平凡ながらも幸せな生活を送っている様子が窺え、自分の娘の事のようにホッとしました。



post by aozora

15:15

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『教団X』  中村文則

2017年08月23日

 アメトーークの読書芸人で ピース又吉やオードリー若林が推薦した事で話題となった作品です。
 先日文庫化されたので、やっと読みました。

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 作品の舞台は、対立する2つの宗教団体です。 
 ひとつは、“沢渡” という教祖が率いる「教団X」 で、セックスで人を洗脳していくカルト教団。もうひとつは、アマチュア思索家を自称する “松尾” が主催する、宗教とも言えないような温かく緩いつながりの集団です。
 この2つの教団の間で迷う男女 (高原、楢崎、立花、峰野など) の姿に、松尾や沢渡の過去、因縁、欲望などを絡めながらストーリーが展開していくのですが、更にそこへ 公安警察の陰謀、アフリカの貧困ビジネス、テロ集団、太平洋戦争なども絡むため、扱われるテーマは多岐に亘り、なかなか複雑でヘビーな構成となっています。
 ただ、途中でいろいろな話が挿入され、それが各々結構なボリュームがあるので判り難くなっていますが、基本的なストーリーは明確でしっかりしており、そこを外さなければ決して難しい小説ではないと思います。

 松尾の講話が 「教祖の奇妙な話」 として数話挿入されているのですが、その内容がなかなかユニークで深く、とても面白いです。
 第1話は ブッダによる仏教の始まりとその後の姿、人間の身体を構成する膨大な数の原子と意識の関係。第2話は 宇宙の始まりとされるビッグバンと古代インドの宗教聖典 「リグ・ヴェーダ」 の関係。第3話は 人間の身体を構成している原子達は、リサイクルされて再び誰かの身体の構成物に成り得るという話しなどなど、ここだけでも一冊の本になりそうです。

 更に、放送局を占拠したテロ集団のリーダーが、保守系や左翼のコメンテーターと太平洋戦争についてやりあうシーンなども 興味深く面白かったです。
 教団Xの性格上、セックスシーンの露骨な描写が多いですが、そこは小説の構成上、仕方のない部分だと思います。

 いろいろと評価や賛否は分かれているようですが、僕としては とても面白い作品でした。



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23:23

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『ミヤマ物語 1~3』  あさのあつこ

2017年08月22日

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 第1部 二つの世界 二人の少年 
 第2部 結界の森へ 
 第3部 偽りの支配者


ミヤマは 深山。
緑の深い美しい山も、その懐には深い闇を抱いている。

舞台は、深い深い山奥にある小さな村、雲濡 (うんぬ) と 更にその奥にある異世界、ウンヌ。
主人公は、いじめられて不登校となり、家庭にも居場所を見つけられない小学生、透流 (トオル) と、ウンヌの世界で最下層の身分に生まれ、日々の生活にも事欠き喘ぐ少年、ハギ。
昼の世界と夜の世界、二つの世界で暮らす 2人の少年の 冒険と成長の物語です。

イジメや格差社会という現代的なテーマも織り込みつつ、基底にあるのは 自分を、仲間を信じて困難に立ち向かう勇気と、友を想う友情、親が子を、子が親を想う愛情です。

今いるここは自分のいるべき場所ではない と思い、ここではないどこかへ逃げ出したい という気持ちは 多くの人が一度は感じたことがあるはず。
しかし、どこかへ逃げても そこは決してユートピアではない。この作品でも、イジメから逃げ出した透流がたどり着いたのは 厳しい格差社会のウンヌでした。

生きて戦ってこそ、未来は開ける。
自分を変える為に、自分が住む世界を変える為に、透流とハギが手を取り合って困難に立ち向かい 戦う姿からは、子供たちに向けた作者のメッセージが ストレートに ビシビシと伝わって来ます。

もう少し深く掘り下げても良いのでは、と感じる部分もあったけれど、読みやすい文章で テンポよく進む展開は スピード感があり、小学生向けとしては これで良かったのではないでしょうか。

「バッテリー」 の あさのあつこが描くファンタジー作品。
ファンタジーを書いても あさのあつこは あさのあつこでした。





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21:21

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『あなたの人生の物語』  テッド・チャン

2017年07月21日

 映画 「メッセージ」 を観た後で、映画を理解するために買ったのですが、その時に読んだのは原作である 「あなたの人生の物語」 だけ。
 やっと残りの7編も読みました。


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 収録されているのは次の8編と、作者自身による解説です。

「バビロンの塔」 
  遂に天にまで届いたバベルの塔から、天蓋に穴を掘り、更に上を目指した結果、たどり着いた場所とは・・・
「理解」
  脳の損傷を修復する為の薬の副作用によって誕生した超知性同士の 静かで激しい戦い。
「ゼロで割る」
  数学の大部分が誤謬である事が証明されたなら・・・。疑うべくもないはずの常識を疑う作品。
  夫婦間の 埋められない認識の差が 切なく哀しいです。 
「あなたの人生の物語」
  異星人とのコミュニケーション、時空間の認識、フェルマーの原理、映画の原作。
  先日の映画「メッセージ」の記事の中で 異星人 ”ヘプタポッド” が書く文字を残念と記しましたが、そういう文字にした理由が他の短編の中にありました。どの作品だったか失念しましたが、ああ そういう事だったのね と勝手に一人で納得しました。
「七十二文字」
  "ゴーレム" を動かすための "名辞” の開発と、"前成説" による不妊問題の解決策。
  "名辞" とは、コンピュータソフトウェアのようなものなのか、陰陽師の呪(しゅ)のようなものなのか、はたまたDNAなのか・・・。 
「人類科学の進化」
  超人類知性体の誕生、イギリスの科学雑誌〈ネイチャー〉に掲載されたショートショート。 
「地獄とは神の不在なり」
  天使の降臨は福音なのか、災いなのか。
  度々の天使降臨により 奇蹟が起こるだけでなく、死者も出る世界の物語。 
「顔の美醜について ―― ドキュメンタリー」
  容貌による差別が問題となっている世界。容貌差別をなくす為に生みだされた 美醜失認処置  “カリー”  の是非を問う。
  差別とまでは言えなくとも、顔や頭髪、体型等々、見た目による損得ってありますよね。そんなお話です。 


 時代も設定も様々ですが、それぞれ現実とは少しズレた所にある異世界が舞台です。
 言語学、物理学、数学、工学、哲学、宗教などをスパイスにして、硬質な文章で論理的に展開される作品が主ですが、とにかく発想がユニークで、意表を突く面白さがあります。
 学術用語など、少々難解な単語が多く出てくるので読みにくいし、簡単には理解できない部分も多々ありますが、久しぶりに頭をフル回転させて読み終え、なんだか妙な満足感がありました。
  
 先日読んだ 「夏への扉」 に続く ハヤカワSF文庫。高校、大学時代には 創元推理文庫と共に むさぼるように読んだなと、懐かしく思い出しました。久し振りに読んだ本格的なSF小説は新鮮で、とても楽しかったです。
 



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21:21

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『物件探偵』  乾くるみ

2017年07月20日

これも CVS仲間のNさんからお借りして読みました。
読書仲間から回って来る本には 自分では買わないであろう作品も少なくないので、新鮮です。


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「視覚探偵 日暮旅人」 というドラマがありましたが、こちらは 宅地建物取引主任者という資格を活かした いわば 「資格探偵」 です。
不動産取引を題材としたライトミステリーというアイデアは良いと思います。現実世界でも不動産取引に関してはいろいろなトラブルや詐欺事件、不思議な事が起きていますし、家を買う・建てる・借りるというのは一般人にとっては大事(おおごと)ですから、身近に感じられます。
この作品は短編集で、6つの章の最初にその章で扱われる物件の間取り図が掲載されているのですが、それを見ながら推理するという趣向も良いですね。特に目新しいトリックなどは無いのですが、不動産に関する知識や不動産業界の裏話が出てくるのも面白い。それぞれの最後もきれいにまとめられているので、サラサラと気持ちよく読めます。
ただ、不動産の声が聞こえ、その部屋の気持ちが判る探偵というのはどうでしょう? そんな特殊能力を持った探偵が、それを活かしてサラッと解決するというのはちょっとズルいんじゃない? と思ってしまいました。


ところで、乾くるみは男性なのですね。
「イニシエーション・ラブ」くらいしか読んだ事がなく、女性だとばかり思っていたので、53歳のおじさんだと知ってビックリしました。



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07:21

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『陸王』 池井戸 潤 

2017年07月07日

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CVS仲間のNさんからお借りして読みました。
「陸王」 と言えば 昔の日本製ハーレーダビッドソン (昭和34年生産終了) や、札幌にあったオートバイ販売店 (平成20年12月倒産) を思い出しますが、この小説では ランニング用の足袋の名前です。

池井戸潤らしいストーリー展開で、楽しく、面白く、一気に読みました。
地方都市の創業 100年の老舗足袋メーカーが舞台。ジリ貧の業績を打開しようと ランニングシューズへの参入にチャレンジするというストーリーで、局面毎に生じる様々な問題を解決しながら 成功に向かって突き進むという いつものパターンです。
ただ、今回はひとつひとつの問題が小ぶりで、ここで更に大きな難題が降りかかるのだろうと思って読み進めると そんな事もなく、問題が比較的スムーズに解決されてしまうので、少々盛り上がりに欠けます。本当はそんなに簡単に解決できた訳ではないのでしょうが、それぞれの描写があっさりしているので、そんな風に読めてしまうのかもしれません。問題が小さくまとまってしまうと、それを解決した時の喜びや達成感も小さくなってしまう訳で、物足りなさが残りました。
大いなるマンネリとも言えるような安定した面白さではありますが、先の展開が予想できてしまい、それが殆ど外れないというのはちょっと残念です。こちらの予想を裏切るような大胆な展開があっても良かったのではないか、と思ってしまいました。


ところでこの 「陸王」、モデルが実在するそうです。
それは、「ランニング足袋 KINEYA MUTEKI(きねや無敵)」。
埼玉県行田市にある きねや足袋㈱ というメーカーの製品です。
会社のホームページは こちら 。
きねや無敵のコーナーは こちら です。
最後まで読んでもイマイチ 「陸王」 のイメージがよく掴めなかったのですが、モデルとなったのは こんな足袋なのですね。

50年と少し前、小学校低学年の頃の運動会では足袋を履いて走っていました。
底は厚手の布で、ちょっと高いのは皮が貼ってありましたが、普通の足袋でした。
高学年になると運動靴になりましたから、覚えている人は少ないでしょうね。




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20:20

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『夏への扉』 ハインライン、他

2017年07月04日

彼は、死後三十年を経ていない作家の本は原則として手に取ろうとはしなかった。
「現代文学を信用しないというわけじゃないよ。ただ俺は時の洗礼を受けていないものを読んで貴重な時間を無駄に費やしたくないんだ。人生は短かい。」
              (村上春樹、「ノルウェイの森」 より抜粋。)


本屋さんを舞台にした小説を何冊か読んだのですが、その中に登場した小説から、とりあえず3冊をピックアップ。
ちなみに、ハインラインは 1988年に 80歳で、梶井基次郎は 1932年に 31歳で、山本周五郎は 1967年に 63歳で 亡くなっています。


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『夏への扉』 ロバート・A・ハインライン  1956年
猫が登場する小説の傑作として紹介されますが、SF小説の傑作でもあります。
ただ、SFとは 一般的にはサイエンス・フィクションですが、この小説の場合は サイエンス・ファンタジーでしょう。
この作品は 冷凍睡眠や タイムマシンによる時間旅行を扱っており、こうした作品では しばしば未来からのタイムトラベルによる過去の変更の是非がテーマとされるのですが、主人公は語ります。
「ぼくは、時間の〝パラドックス” とか、〝時代錯誤” をひきおこすことを、心配などはしない。」 
その潔さがこの作品を ロマンティックで 魅力的なものにしていると思います。


『檸檬』 梶井基次郎  1924年10月
40年ぶりに読みました。
20の短編が収録されているのですが、やはり代表作は 「檸檬」 でしょう。
僅か 10ページほどの掌編ですが、清冽で とても印象的な作品です。
本屋の棚に本を積み重ね、その上に檸檬をひとつ置いて立ち去る最後のシーンが有名ですが、そのインパクトの強さは、今 改めて読み返しても 最初に読んだ時と 何ら変わりませんでした。


『赤ひげ診療譚』 山本周五郎  1958年
この作品は 「樅ノ木は残った」「さぶ」 と並ぶ山本周五郎の代表作で、1965年に 黒澤明監督、三船敏郎主演で映画化されたのをはじめに、何度もTVドラマ化されており、赤ひげ先生は結構馴染みのある存在なのですが、多分 初めて読みました。 (現在、サントリー胡麻麦茶のCMに 「赤ひげ」 が登場しますが、あれは三船敏郎のそっくりさんが演じるパロディです。)
1958年3月から12月まで 「オール讀物」 に連載された8編の短編から構成されています。
小石川養生所の “赤ひげ" と呼ばれる医師と、長崎帰りの見習い医師の魂のふれ合いを中心に、貧しさの中でもたくましく生きる庶民の姿を描いているのですが、主人公は むしろ見習い医師の方なのですね。
勝手に 赤ひげ先生は 「貧乏人に優しい人情家の名医」 というイメージで捉えていたのですが、原作の中では 結構短気な熱情家として描かれています。自分の理想とする医療を追い求め、時に独断専行、時に暴力も辞さず、打算的で戦略的なところもあり、醜く愚かな世の中に怒り、自分の無力さに悩み、苦悩する一人の人間として描かれているのが ちょっと意外でしたが、そこがこの作品の良さなのでしょう。



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22:13

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『サカバナ』 

2017年06月20日

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右の円いのは おまけのコースターです。

【帯のコピー】
二日酔いのような読後感。
酒にまつわるエッセイや路地裏感漂う小説、呑兵衛の言い訳、何の役にも立たない泥酔記録などをチビチビ拾い集めた、酒場の何かの金字塔。
良くはない。だが、酔い本だ。

「二日酔いのような読後感」 って、最悪ですよね(笑)。

札幌在住のいろんな方々が ノーギャラで書いた原稿を集めた本 という事なので読んでみました。
酔っぱらいの戯言、失敗談、酔っぱらいあるあるなど、そんな掌編が 24編、収録されています。中にはホロっとくる話もありますが、大方は 自分も経験した事のあるような どうでもよい話ばかりで、”酔っぱらい同好会の会報” というところでしょうか。
ちびりちびりと お酒を片手に読むには ちょうど良いくらいの本でした。

ところで、
執筆者の中に お隣のご主人もいたのに ビックリ!
今度 一緒に飲みたいものです。



post by aozora

22:02

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『黙示録 Apocalypse』  池上永一

2017年06月13日

CVS仲間の野風さんから お借りしました。
作者は 「テンペスト」 で有名な池上永一ですが、彼の作品は今回 初めて読みました。
漫画家の池上遼一とは一字違いですが、出身地も年齢も異なっており、何も関係は無いようです。

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タイトルは 「黙示録」。
黙示録というと 「ヨハネの黙示録」 や 「地獄の黙示録」 などがイメージされ、終末ものなのかと思いましたが、全く違いました。
黙示録は、ギリシャ語では 「アポカリュプシス」 といい、「ベールを外す」 とか 「覆いを外す」 といった意味だそうです。この小説では、主人公・蘇了泉の一生を描く中で、長年隠されていた 「月しろ」 のベールが取り除かれ、その謎が明らかにされるのですが、そういう意味での このタイトルなのでしょう。 

この本の商品説明には こうあります。
18世紀前半の琉球王国。数奇な運命の下に生まれた少年・蘇了泉は、病身の母のため、立身出世を目指して舞踊の頂点を極めようとするが…。天才の 「天国」 と 「地獄」 を描く一大叙事詩。

主人公の蘇了泉は最下層出身のダーティヒーローで、自分が生き残る為にはどんな卑劣な事でも平気でやってしまいます。時には不快に感じる場面もあります。
その彼が、一度は高みに上りながら、自らの慢心により底辺まで叩き落され、更にそこから這い上がり、やがて伝説に昇華していく物語は まさにスペクタクル、一大叙事詩でした。

登場人物の中で、蔡温 (1682年~1762年)、清の徐葆光 (1671年~1723年)、組踊の祖・玉城朝薫 (1684年~1734年)などは実在の人物です。その頃の琉球を舞台に、史実も含めながら、琉球舞踊をテーマにした壮大なドラマが描かれます。
江戸幕府や島津藩と 清朝との間で 微妙なバランスを取りながら生き残りを図る琉球王国。その為の駒として使われる 舞踊家、楽童子たち。それぞれのキャラクターが、それぞれの思惑で、それぞれに波乱万丈な生涯を送るのですが、それもまた丁寧に描かれていて なかなかに面白く、作品に厚みを与えています。

かなりボリュームのある作品で、前半と後半の印象は ずいぶんと異なるものでした。
中には 何人かとんでもないキャラクターがおり、それはさすがに行き過ぎではないかと感じる部分もありましたが、全編を通して読みごたえがあり、十分に堪能させていただきました。

生き生きとした描写により 次々と映像が浮かんできます。
ただ、この作品のポイントは 「舞踊」 なのですが、琉球舞踊だけでなく 能や 歌舞伎も重要な位置にあり、その舞踊のシーンを映像化するのは至難の業。
そこが上手く表現出来ないと この作品の良さが伝わらない訳で、現実的には無理でしょうね。



post by aozora

23:23

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