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2008年04月05日

CONSAISM clasics #38

clasics #38です。しかしどうしてこんなに過去と現在のネタがかみ合うんだろう。
自分のスケジュールに合わせて上げているだけなのになあ。


残り43試合の前途多難をあっさりと予想させながら、今年もまたフットボールのシーズンが始まった。札幌にとって、8回目の早い春の訪れである。そしてこのチームができてもう7シーズン、自分が応援するようになってから6シーズン半。思い起こせばもう立派にそれなりの年月が経ってしまっていて、思い出としてしまっておきたい試合や、誰にも話したくないタブーのような試合や、伝説としてとうに誰もが知ってしまっている試合が、歴史という層の中に薄いながらもそれぞれの色を見せている。「99年開幕当時のイレブンを答えなさい」とか「札幌に在籍したことのある外国人選手をすべて挙げよ」なんて質問をされても、自分はもう立派に答えきれる自信はない。そんな過去の記憶を覆い隠してしまうだけの歴史がちゃんとあるということだ。この原稿を書きながら思い出してみて(あるいは思いだそうとして思い出せなくてデータを引っぱり出したりして)その深さが自分の予想以上であるということに気づき、少々びっくりした。そして同時に、良い色の地層や立派な年輪を刻んでほしいものだと願ってもいたけれど。

時々、そんな昔の記憶を持っている他のファンや選手たちに、あなたのベストイレブンとトップ5のゲームを教えてください、といってアンケート用紙を配ってしまいそうな気持ちになることがある。でも集計して「これがサポーターの選ぶベストです!」だなんてやりたくはない。そんなのは一人一人のファンの持っている思い出や歴史を踏みにじるものだからだ。逆にアンケートを書いた人一人一人にその選手やゲームを選んだ理由を、思い入れを聞かせてほしいくらいだ。彼(彼女)はその日どこにいて、どんな風に試合を見ていたのか。ゴール裏か、メインスタンドか、はたまたブラウン管の向こうか。どんな思いがあったのか。どんなところに目を惹き付けられたのか。それにまつわる個人の思い出(彼女と初めて行ったとか、初めて喉が嗄れただとか)とか。そんなことを100人くらいに聞いて回ったら、結構札幌的には興味深い本が一冊できあがりそうな気がする。

もちろん他のプロチームはもっともっと多くの歴史や、語られるべき選手や、事あるごとに思い出されるゲームを持っている。日本で最初のプロ選手から始まり、Jリーグ創設時の10チーム、それからどんどんと増えていったプロチーム、飛躍的に増大したプロ選手数とその質の向上、それに伴ったゲームの増加は週末どこかで必ず試合が見られるという恩恵を可能にさせた。そしてその分だけ、観る側の人間が語る言葉や、目に焼き付けられたプレーや、記憶から抹消したいほど恥ずかしいゲームが増えていった。Jリーグはフットボールの試合やこの国のフットボールのシステムを大きく変えただけでなく、僕らがフットボールについて語り合う機会とその言葉の量をも大きく増やしている。スタジアムで、フットボールカフェで、居間のテレビの前で、気の置けない仲間と、あるいは初めて会う人と、言葉のパスゲームが続く。それは皆で円く広がって、空き地でボールを回しあうような感覚。そんな中から伝えられるべきものが伝えられ、その土地の、そのチームにおけるフットボールの遺伝子が渡されてゆく。さながら現代的な口承文化、なんてのは言い過ぎだろうか。

今までも札幌のフットボールはありとあらゆるところで語られ、時にはこうして不特定多数に発信されてきた。その中で語られてきたのは必ずしも素晴らしい伝説ばかりじゃない。五分五分くらいで苦い思い出も混じってる。けれどもそうやって語られる事でフットボールはフットボールとしてのその地位と歴史を形づくってきたし、これからもそうだろう。なによりもフットボールを語るという行為そのものは、よほどの悪口雑言でもない限り楽しいものなのだ。そうして、

「ベストゲームは?」「昨日の試合だよ」
「ベストイレブンは?」「昨日のスタメンだよ」
なんてさらっと言えるほどの誇りも願わくば持ち合わせれば十分である。

さて今年は、どれだけ語りたくてたまらないことが増えて、嫌なことも笑い話で済ませられることができるだろうか。そのためにはまず、次の試合は勝っておかないとね。
 

posted by retreat |23:12 | classics | コメント(0) | トラックバック(0)