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2010年04月07日

裏通り

母は、病気で、

障害者で、車椅子で。


何度も何度も手術を繰り返し、

手も足も全身、消えない傷跡だらけで。





だからビジュアル的には、やはり美しいとはいえず・・・





いつかのある日、

母と近所のスーパーまで、買い物に行った時、


反対側から歩いて来た女子高生が、車椅子の母をチラッと見て、

すれ違いざま、無機質につぶやいた。





「キモイ・・・」





その瞬間、私は心臓をえぐられるような痛みを感じた。





「なんか、おいしいもの売ってないかなぁ~。」


いつもと変わらないように振る舞う、母の声を聞きながら、

私は遠い昔のことを、思い出していた。





それは、私が思春期の入り口に、さしかかる頃・・・





あの頃の私は、母の車椅子を押すのがイヤでたまらなかった。


理由は単純、その姿を友達に見られるのが恥ずかしかったから。








毎日毎日、ずっと家の中にいる母は、

たまの外出を、本当に楽しみにしていた。


けれど、内心イヤイヤ車椅子を押す私は、

いつも人通りの少ない、狭い裏通りを選んだ。




「向こうの商店街のほう行こうよぉ。」

そう願う母に、


「こっちのほうが、近道だから!!」

と、私は遮るように返事をする、



同じようなやりとりが何度もあったが、

やがて母は、もう何も言わなくなっていった。





そんな忘れてしまいたい記憶が、痛みと共に蘇った。





母は、病気で、


障害者で、車椅子で。



それでも必死に、それでも懸命に、私を育ててくれた母を、



私は、恥ずかしいと思っていた。


誰にも、見られたくないと思っていた。





ひっそりと暗い裏通りを、隠れるように車椅子を押す、



あの頃の安っぽい自分を、





私は一生、許さない。






posted by た |00:25 | | トラックバック(0)

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