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2010年10月20日

『中陰の花』  玄侑宗久

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中陰(ちゅういん)とは、仏教用語で 人が死んでからの 49日間を指します。
死者は 49日目に 次に六道中のどの世界に生まれ変わるか が決まるそうで、死者が生と死、陰と陽の狭間を彷徨うため 中陰(あるいは 中有)というそうです。

ところで、仏教では 昔から 初七日だとか 四十九日だとか 7日毎に法要があります。
一週間(7日)という区切りは キリスト教圏のもので、仏教には馴染まないのではないか と不思議に思っていたのですが、古代インド文明は 7進法だったので 7日区切りになったのだとか。
何故、七進法? 本当? 古代インド人の指は 7本あった、なんて事はないですよね。

日本にも昔から七福神というのがあるし、七という数字と 満更無縁ではないのではないか という方もいらっしゃるかもしれませんが、七福神は日本独特の神仏習合の賜物で、インドのヒンドゥー教 (大黒・毘沙門・弁才)、中国の仏教 (布袋)、道教 (福禄寿・寿老人)、日本の神道 (恵比寿・大国主)が 入り混じって形成されたものだそうですよ。


閑話休題。
作者は 臨済宗の現役の僧侶だそうです。
この作品の主人公も 禅寺の僧侶ですが、パソコンで檀家の過去帳を管理し、超能力を調べる時にはネットで検索するような現代人です。極楽や地獄、輪廻などを否定しつつも、己の中に 仏教の世界観はまだ確立できていないようで いろいろ迷うことも多いようですが、現代の死生観や宗教観、新興宗教や神秘体験などに 真っすぐ取り組んで行きます。
専門の仏教用語も出てきますが、わかりやすくすっきり纏められ、読みにくさはありません。

こういう本を評価する時でも “面白い”という言葉しか思い浮かばない己の語彙不足が悔しいですが、なかなか面白い作品でした。


作品の中で 主人公の僧侶は 妻から“人は死んだらどうなんの?”と尋ねられ、仏教での考え方を説明するのだけど、この答えが興味深いものでした。
“基本的に 質量不滅の法則で考えてるんだ。コップの水が蒸発すると 水蒸気はしばらくこの辺にあるやろ、それが中陰と呼ばれる状態。それから水蒸気はどんどん広がる。窓から出てって 空いっぱいに広がっていく。それをインドの人はシューニャと呼び、中国では空(くう)という言葉になる。コップの中の水は無くなったけど、この地球上から無くなってはいない。草葉の陰にもあまねくいるわけだ。
その状態は 木端微塵の微塵という大きさで、それが 更に七つに分かれて 極微(ごくみ、仏教でいう物質の最小単位)となるが、それは素粒子とほぼ同じ大きさなんだって。
その極微は 更に分かれるが、それはもう物質ではなくてエネルギーで、空(くう)というものを一種のエネルギーとして捉えると 説得力があるね。”
“人が死ぬと純粋な光になる、という考え方がチベット仏教にあるんだ。
仏教での極楽浄土ってのは 十万億土のかなたにあるんだけど、その距離を四十九日かかって行きつく場合、そのスピードは 秒速30万キロ、つまり光や電気と同じ速さになるんだ。”

原文を少々要約していますが、内容は変わっていないと思います。なんだか 妙に納得してしまいました。


妻は、4年前に流産してしまった我が子の事をずっと思い続け、色とりどりの紙縒りを作り貯めています。その溢れんばかりにたくさんの紙縒りを 網状のシートに編んで天井に飾り、死者の霊を弔い、成仏させることで 自分の心の整理を付けていくというのが 後半のストーリーです。
我が子や おがみやの婆が成仏する瞬間を 象徴的に表しているのが その紙縒り製のシートで、それを作者は 中陰の花と名付けています。
死と宗教、人の心という重いテーマを現代的な感覚で捉え、深みと余韻が残るエンディングに仕上げられており、この辺もなかなか良かったです。
                         (2010.10.19 読了)

posted by aozora |22:35 | 本の話 | コメント(2) | トラックバック(0)

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この記事に対するコメント一覧
Re:『中陰の花』  玄侑宗久

玄侑宗久氏はひぐまの親戚(父の姉)が住む福島県三春町の人なんですよね。
同氏の作品で「アブラクサスの祭」が映画化されました。ひぐまの親戚・知人もエキストラで出ているらしいので公開を楽しみにしています(^^)。

posted by ひぐま@鉄鍋餃子 | 2010-10-20 23:36

Re:『中陰の花』  玄侑宗久

>ひぐまさん
予告編、ネットで観ました。主演がスネオヘア、エンディングテーマが“ハレルヤ”(坊主なのに?)というのは驚きですね。12月25日公開という事なので、ちょっと楽しみになりました。

posted by 青空| 2010-10-23 11:06

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