2010年01月26日
『龍時』 野沢 尚
『龍時』 は 野沢尚によるサッカー小説で、シリーズ第一作は 2002年4月に刊行されており、漫画化もされているらしいが、今まで 読んだ事はなかった。 野沢尚は 「破線のマリス」や「深紅」「呼人」など 何冊か読んでいるのだけれど、それらを読んだ後でも脚本家というイメージが強く、野沢のコーナーには あまり手が伸びなかったのだ。 先日、古本屋をブラブラしている時に たまたま表紙が目に付き、サッカー小説なら試しに読んでみようか と思って 「01-02」 を購入。 読み始めたら結構面白くて、1~2日で 一気に読み終え、続けて 「02-03」 「03-04」 も 購入してきた。
パートⅠとなる「01-02」 は、日本のサッカー界に閉塞感を感じた 16歳のリュウジが、単身スペインに渡って リーガ・エスパニョーラに挑戦するストーリー。 パートⅡ「02-03」 は、レンタル移籍となったリュウジの新チームでの活躍を、初々しい恋と絡めて展開。 パートⅢ「03-04」 は、日本のU-23代表に呼ばれたリュウジの、アテネ五輪での活躍を描いている。
野沢尚は 2004年6月28日、アテネ五輪の前に自殺した。理由はわからない。 シリーズ最終話となってしまったパートⅢ『龍時03-04』が刊行されたのは 2004年7月7日。 アテネ五輪の開幕は 2004年8月13日。 作者はアテネ五輪を見ないまま逝ってしまった。 『龍時03-04』 は アテネ五輪を舞台にしているのだが、この作品が書かれたのは前年の秋、出場国もまだ決まっていない段階だったので、当然ながら 出場国も 結果も まるで違っている。 実際のアテネ五輪が この小説のような結果になっていれば嬉しかったのだけれど、残念ながら現実は 1勝2敗、勝ち点3で 予選リーグ敗退。 W杯日韓大会の盛り上がりの中で始まり、野沢尚の自殺によって未完のまま終わってしまった 龍時シリーズ。 2004年のアテネ五輪(1勝2敗)以降、日本代表はW杯ドイツ大会(1分2敗)、北京五輪(3敗)と惨敗続き。 作者がもし生きていたとしたら、その後の龍時や日本代表を取り巻く状況を どのように設定し、展開させたのだろうか。 因みに、パートⅣとなる『龍時04-05』は 怪我とリハビリをテーマにする予定だったらしい。怪我人の多い札幌サポとしては 是非読んでみたかったな。 実際のオリンピックやワールドカップの試合や選手、内幕や裏側を描いたドキュメンタリーやノンフィクションも面白いけれど、それとは全く異なる展開を描く小説も アリだと思う。 ただ、現実と あまりかけ離れてしまったなら興醒めな訳で、現実を踏まえた上での創作でなくては 共感できないし、そのためには 相当程度のリアリティは必要。 この作品で描かれる試合の場面は 中西哲生ら 元Jリーガーに かなりのアドバイスをもらい、かつ チェックを入れてもらっているようなので、かなりリアルな臨場感があり 楽しめる。 いつも観ている試合に近いだけに 感情移入がしやすい。“きっと うちの選手たちも これと似た想いを抱きながらプレーしているのだろうな” などと考えながら 読んでいた。 試合以外の場面は 家族の問題や 恋愛、人種差別、サッカービジネスなど、野沢尚らしいサイドストーリーが展開され、それはそれで面白いアクセントとなっている。 サッカーのルールやポジション、用語を知らない人には 戸惑う所もあるかもしれないけれど、サッカー好きなら 充分に楽しめる作品。 パートⅢで 未完のまま終わってしまったことが とても残念だ。
posted by aozora |20:40 | 本の話 | コメント(2) | トラックバック(0)
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この記事に対するコメント一覧
Re:『龍時』 野沢 尚
こんばんは。私も「龍時」を3冊とも読みました。
「03-04」では曽ヶ端が好きでした。いいお兄さんですよね。
ちなみに「平義監督は三浦監督に似ている。実はモデルかも!?」
という説を何かで読んだことがあります。
posted by orion | 2010-01-26 21:13
Re:『龍時』 野沢 尚
>orionさん
平義監督=三浦監督説、それは 僕も感じました。
経歴や 守備重視のサッカーなど、確かに 似ているところがありますよね。
曽ヶ端は いい味出してましたよね。
実際の彼も あんな感じなのでしょうか?
実名で登場する選手が多いので、どこまでが創作なのか 迷ってしまう部分です。
posted by 青空| 2010-01-27 08:46