2013年12月06日
『ラブレス』 他 2冊 桜木紫乃
今年、第149回直木賞を受賞した桜木紫乃、 受賞作である『ホテルローヤル』を読んだ後、 『凍原』、『起終点駅(ターミナル)』を読み、今日『ラブレス』を読み終えました。
道東の極貧の開拓農家の娘・百合江の 波乱万丈で壮絶な一生を中心に、その母・ハギ、妹・里実、娘・理恵、姪・小夜子の人生を描いています。 時に反目しあいながらも 切れない絆で結ばれている 母と娘、姉と妹、従姉妹たち。 それぞれに対照的な性格の女たちは 各々 問題や不幸を抱えており、全体に 暗く 重いトーンで話は進みます。 しかし、周囲に翻弄され 流されながらも したたかに 逞しく生きる姿が描かれ、次第に グイグイと引き込まれ、後半からは 一気に読み終えました。 登場する男は (石黒を除いて)どうしようもない男たちばかりなのですが、ラストのシーンでは泣かされました。 小説なのですが、「人生劇場」や「テネシーワルツ」、「時の過ぎゆくままに」など、昭和の歌謡曲が 様々な場面で 効果的に使われています。 何度か 百合江の歌声が聞こえてきそうに感じました。 146回直木賞、吉川英治文学新人賞などの候補となったそうですが、この作品にはそれだけのものがあると思います。 受賞作の『ホテルローヤル』よりも 読み応えがありました。 ところで、タイトルは “LOVE LESS”。 何故 このタイトルになったのでしょう? このタイトルで損をしていると思うし、もっと違ったタイトルがあったように思います。
「かたちないもの」、「海鳥の行方」、「起終点駅」、「スクラップ・ロード」、「たたかいにやぶれて咲けよ」、「潮風の家」、北海道を舞台にした6つの短編からなる短編集です。 不倫や身内の犯罪、親の失踪 など、重い過去を背負って 孤独に生きる人々の姿を描いています。 男と女、親と子、様々な人間関係が淡々と描かれますが、そのどれもが 切なく哀しいです。 しかし、苦しみ 悩みながらも 皆 前向きに生きており、その根底には 生きる事への肯定があるように思います。 暗い話が多いですが、それぞれに 深い余韻があり、読後感は 決して悪くないです。 「たたかいにやぶれて咲けよ」、「潮風の家」が良かったです。
著者唯一の長編ミステリーです。 ひとつの事件が発端となって暴かれるいくつもの過去。 終戦間際の樺太から必死の思いで引き揚げて来て、マサリベツ、ススキノ、室蘭、現在の釧路まで、広大な北海道を舞台に展開されるストーリーは なかなか読み応えがありました。 『ホテルローヤル』でも 一番印象に残ったのは「星を観ていた」だったし、桜木紫乃は こうした底辺であえぎながらも 生きる女たちを描かせると 本当に上手いと思います。 ただ、この作品に関しては、如何せん殺人の動機が薄すぎて、警察小説としては消化不良、ミステリーとしては今ひとつです。 “北海道警察釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂”というサブタイトルが付いていますし、暴力団員となったリンとの関係など、いくつかのネタが残されていますから、上手く行ったら続編をと考えているのでしょうか。
posted by aozora |22:40 | 本の話 | コメント(0) | トラックバック(0)
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