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2017年07月21日

『あなたの人生の物語』  テッド・チャン

 映画 「メッセージ」 を観た後で、映画を理解するために買ったのですが、その時に読んだのは原作である 「あなたの人生の物語」 だけ。
 やっと残りの7編も読みました。


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 収録されているのは次の8編と、作者自身による解説です。

「バビロンの塔」 
  遂に天にまで届いたバベルの塔から、天蓋に穴を掘り、更に上を目指した結果、たどり着いた場所とは・・・
「理解」
  脳の損傷を修復する為の薬の副作用によって誕生した超知性同士の 静かで激しい戦い。
「ゼロで割る」
  数学の大部分が誤謬である事が証明されたなら・・・。疑うべくもないはずの常識を疑う作品。
  夫婦間の 埋められない認識の差が 切なく哀しいです。 
「あなたの人生の物語」
  異星人とのコミュニケーション、時空間の認識、フェルマーの原理、映画の原作。
  先日の映画「メッセージ」の記事の中で 異星人 ”ヘプタポッド” が書く文字を残念と記しましたが、そういう文字にした理由が他の短編の中にありました。どの作品だったか失念しましたが、ああ そういう事だったのね と勝手に一人で納得しました。
「七十二文字」
  "ゴーレム" を動かすための "名辞” の開発と、"前成説" による不妊問題の解決策。
  "名辞" とは、コンピュータソフトウェアのようなものなのか、陰陽師の呪(しゅ)のようなものなのか、はたまたDNAなのか・・・。 
「人類科学の進化」
  超人類知性体の誕生、イギリスの科学雑誌〈ネイチャー〉に掲載されたショートショート。 
「地獄とは神の不在なり」
  天使の降臨は福音なのか、災いなのか。
  度々の天使降臨により 奇蹟が起こるだけでなく、死者も出る世界の物語。 
「顔の美醜について ―― ドキュメンタリー」
  容貌による差別が問題となっている世界。容貌差別をなくす為に生みだされた 美醜失認処置  “カリー”  の是非を問う。
  差別とまでは言えなくとも、顔や頭髪、体型等々、見た目による損得ってありますよね。そんなお話です。 


 時代も設定も様々ですが、それぞれ現実とは少しズレた所にある異世界が舞台です。
 言語学、物理学、数学、工学、哲学、宗教などをスパイスにして、硬質な文章で論理的に展開される作品が主ですが、とにかく発想がユニークで、意表を突く面白さがあります。
 学術用語など、少々難解な単語が多く出てくるので読みにくいし、簡単には理解できない部分も多々ありますが、久しぶりに頭をフル回転させて読み終え、なんだか妙な満足感がありました。
  
 先日読んだ 「夏への扉」 に続く ハヤカワSF文庫。高校、大学時代には 創元推理文庫と共に むさぼるように読んだなと、懐かしく思い出しました。久し振りに読んだ本格的なSF小説は新鮮で、とても楽しかったです。
 


posted by aozora |21:21 | 本の話 | コメント(0) | トラックバック(0)