2010年10月18日
『南の島のティオ』 池澤夏樹
この本を読んだのは 3度目か4度目になると思います。 古本屋の店頭で見かけた時に、本棚にあったはずだけど 無かったら困るなと思い、買ってしまいました。 何年かすると また読みたくなるんですよね。 池澤夏樹が子供向けに書いた 南の島でのお話が 10編収められた短篇集です。 夢のような南の島ではなく、開発が進行中で、古き良き世界が失われつつある島が舞台です。 しかし、月並みなファンタジーや 教訓めいたストーリーではありません。
「絵はがき屋さん」などは、普通に考えれば あり得ないけど、あったらきいな、あって欲しいな と思えるような話。 「草色の空への水路」や「地球に引っぱられた男」などは、シチュエーションは違うものの 数十年前なら日本にもあったような話。 「十字路に埋めた宝物」や「ホセさんの尋ね人」などは、むしろ大人向けの ちょっといい話。 いろいろなストーリーが詰まっていて、南の島の人々が 生活が 生き生きと描かれます。 ティオの口から語られる形で展開しますが、主役は 島で生活する人々であり、自然であり、神々です。 「エミリオの出発」の中で ティオの友達のエミリオは言います。 “きみたちだって、つまり この島の人たちだって、昔はいろいろなことができたんだよ。でも、外国から品物が入ってきて、そういうものを相手にしているうちに、みんな忘れてしまったのさ。” そんな“忘れてしまったもの”が この本の中にいっぱい詰まっていて、それに気付いた人は この南の島の魅力にとりつかれてしまいます。 「帰りたくなかった二人」というお話では、一週間の予定で この島に遊びに来たカップルが、この島の虜になり、仕事を辞め、持ち物を全て売り払ってまでして滞在費を捻出します。いよいよお金が無くなって 2ヵ月ほど後に泣く泣く帰国しますが、このカップルはこの本の魅力を知ってしまった読者そのものです。 いつまでも この南の島にいたいな と思わされるような、癒される一冊です。 (2010.10.15 読了)
posted by aozora |18:42 | 本の話 | コメント(0) | トラックバック(0)
スポンサーリンク
スポンサーリンク