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2008年07月21日

『破裂』   久坂部 羊

20080719-00.jpg

83歳になる父親は 数年前から 中程度の認知症だったのだが 
気力と体力は衰えても 身の回りのことは自分で出来ていた
しかし 入院して5ヶ月 
発熱の度に体力は衰え 認知症の症状は一気に進んでしまい
今では 殆ど寝たきりで 意志の疎通も難しくなってしまった 

子育てと 老人介護
世話をするのは どちらも大変だが 
子育てには 成長の喜びがあり 成長に従って楽になっていく
介護では 自分の親が衰えていく姿を見るのは 寂しくて哀しく 
それがいつまで続くのか 先が見えないために 不安が募る 

これは 我が家だけの問題ではなく
全国の多くの家庭が抱えている問題 
後期高齢者医療制度ではないが 日本の高齢者問題は深刻だ 



この本は 心臓手術の医療ミス裁判と
プロジェクト《天寿》 と称する 厚労省の高齢者対策を 2本の軸にし 
高齢者問題 尊厳死 大学病院の教授戦などを絡めて 
意欲的に取り上げた 医療ミステリー風(?)小説 


 

以下 ネタバレあり  要注意! 


医療ミス裁判に関わる様々な問題が ミステリー仕立てで綴られるのだが
プロジェクト《天寿》 と称して 秘密裏に進められる 高齢者抹殺計画
高齢者医療や尊厳死 大学医学部の教授戦 厚労省内の権力闘争
内部告発と それに対する妨害工作 暗殺 薬物中毒 等々
それに絡む問題が多すぎて 焦点がボケてしまっている感は否めない 

医療問題に関係した部分は さすが医師だけあって 具体的で詳しく真実味があるが 
それ以外に関しては ステレオタイプな見方が多く 少々薄っぺらで平板になりがち
登場人物の描き方にも 不満が残るし 
前半に比べて 後半は 文章も含めて全体に雑になっている感がある 

ストーリーには 少々強引な展開が 少なくなく 
いくらなんでもそれは無いだろう と苦笑させられる部分もある 
ミステリーとしては たいした事はなく あまり期待すると裏切られるかも

しかし そうした諸々を含めても ぐいぐいと引き込まれるものがあり
結構な長編ではあるけれど 一気に面白く読み終えた 
かなり脚色はされているものの 様々な業界の裏が見えるのも 面白い
読んでみて 損は無い作品 だと思う



      
僕の場合は 自分が抱えている問題もあって 
プロジェクト《天寿》 を含む 高齢者問題 尊厳死問題の方に関心が行ってしまった 

前作『廃用身』では Aケアと称する治療を提起し 老人医療の問題を取り上げていたが 
この小説では PPP(ぴんぴんポックリ)という問題を取り上げている

これは実際に PPK(ぴんぴんコロリ)という名称で 以前から行われている運動で
ピンピンと元気に長生きして 長患いせず 苦しまずにコロリと死にたいと
老人の間では 切実な希望として広く言われ続けられている言葉だ 

この作品の中で提起されているような対策は 論外であるけれど 
それも悪くないのかな と思ってしまう自分がいるのは 怖い 


この作品の題名は 『破裂』 
とすると メインのテーマは 医療ミス裁判ではなく 
やはり プロジェクト《天寿》 なのだろうな




posted by aozora |22:48 | 本の話 | コメント(0) | トラックバック(0)

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