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2007年10月05日

『70パーセントの青空』 『手のひらのトークン』  安西水丸

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先日 『青空のルーレット』 をエントリーした時に 
青空つながりの作品を思い出していたら 
久しぶりに なんだか とても 読みたくなり 
本棚から引っ張り出して 一気に読み終えました



1960年代後半 

アメリカ旅行のビザを取得するために アメリカ大使館での面接が必要だった時代 
1ドルが 360円だった時代 
ベトナム戦争が泥沼だった時代 
東京オリンピックで 裸足のアベベが 東洋の魔女が 優勝した時代 
やがて アポロが月へ行き 
ビートルズが 来日し ストーンズが ホンキー・トンク・ウィメンをリリースし 
村上龍はまだ佐世保の高校生で 女の子にもてるために学校をバリケード封鎖していた頃

安保闘争や 学生運動とは 無縁な青春もあった 



『70パーセントの青空』 は 
大学在学中 足が不自由なヤエ子との出会いから始まり 
広告代理店に就職し 文里との出会い ヤエ子の死 などを経て
アメリカ行きを決意するまでの 

『手のひらのトークン』 は 
アメリカにわたって 不法就労を気にしつつ仕事を見つけ 
日本から追いかけてきた 里美と一緒に生活しながら 
ニューヨークで 貧しくも楽しく生きていた頃の 

作者の自伝的な小説です 
90%は実話だと 作者自身が書いています



先の見えない不安 焦燥 迷い 
せつなく ほろ苦い 出会いと 別れ  
傷つけ 傷つけられ それでも生きていくしかない日々
青春の光と影 
そして 喜び 感動



70パーセントの青だとおもった。70パーセントの青空。それは完全な青にはなにかが不足している。今までの自分にそれを重ねた。70パーセントの青空。それはぼく自身だったかもしれない。 (70パーセントの青空) 

里美がコインの入れてない双眼鏡を覗いた。ぼくはポケットからコインを出した。その時、いっしょに金色の光がこぼれた。トークンだった。里美がそれを拾い、自分の手に握った。ぼくたちはかわるがわる双眼鏡を覗いた。時間がきて、双眼鏡のなかは素っ気ない音を残し闇になった。 
「もうコインない?」 
ぼくは言った。里美は微笑みながら右手を開いた。手のひらにはトークンが一枚だけ光っていた。 (手のひらのトークン)  



小説としては 今ひとつ いや ふたつかもしれない
特別な出来事やアクシデントがあるわけでもなく
淡々と過ぎていく日々を 淡々と書いているだけかもしれない 
だけど あの頃の東京の ニューヨークの雰囲気が 
その中で悩み 生きていた青年の吐息が 等身大に 伝わってきます



僕は こういう小説が 好きです 



全て中途半端なままに終えてしまった 自分の青春時代への レクイエム
もう決してかなう事のない夢への 淡い思いなのかもしれない 





 
安西水丸さんは イラストレーターです 
村上春樹さんと一緒に 『ランゲルハンス島の午後』 『村上朝日堂』 等々
たくさんの本を作っているから ご存知の方も多いですよね 

本名は 渡辺 昇 です 
春樹作品の中に頻繁に出てくるワタナベノボルという名前は ここから来ています 
人となりもモデルになっているか どうかまでは 知りません 


posted by aozora |18:45 | 本の話 | コメント(0) | トラックバック(0)

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