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2016年04月05日

『流(りゅう)』  東山彰良

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第153回直木賞受賞作で、2016年本屋大賞にも ノミネートされています。
本屋大賞の発表は4月12日ですが、受賞はちょっと難しいかな。

 
舞台は 1970年代後半の台湾。国民党総統の蒋介石が死去した日に、かつて国民党に属し 大陸で中国共産党と戦った祖父は殺された。それを発見したのは 孫の秋生、17歳の高校生。
若かりし頃に様々な武勇伝を持つ祖父を殺したのは 誰か? その事件の秘密を追って、その秘密に追われるように、秋生は 自らのルーツでもある中国大陸へ流れていく、というミステリー仕立ての青春小説。

5歳まで台湾で育った 外省人三世の作者だからこそ書けた作品で、中国大陸にルーツを持つ台湾人(=外省人) の不確かなバックグラウンドが とても興味深く面白い。抗日戦争の後の国共内戦、台湾の成立と大陸との対立、外省人と本省人、中国人ならではの感性や考え方など、物語の背景にある 中国と台湾、家族の歴史が この作品に深みを与えています。いくら丁寧に取材をしたとしても、日本人には決して書けない作品でしょう。

一方で、太平洋戦争=抗日戦争後の中国で 毛沢東らが率いる共産党軍と 蒋介石率いる国民党軍が戦った 内戦があったという事、戦いに敗れた国民党は 台湾に流れて国民党政府を作ったという事、大陸から流れて来た外省人と 台湾土着の本省人との軋轢など、基本的な知識が無いと この面白さは判らないかもしれません。

いろんなエピソードを雑多に盛り込み過ぎなのと、ところどころ日本語がおかしいのは ご愛嬌。
直木賞受賞作なのに、、、、というご意見はあるでしょうが、直木賞は そもそも無名・新人及び中堅作家による 大衆小説に与えられる文学賞ですので、あまり目くじらを立てないように。



中国繋がりで もう一冊。

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『時が滲む朝』 楊逸

中国ハルピン市出身の中国人作家、楊逸の作品で、
第139回(2008年上半期)の芥川賞受賞作です。

1988年に 中国の貧しい農村から地方の名門大学へ進んだ 梁浩遠と謝志強という 理想に燃える二人の大学生が 主人公。
二人は まだ若い大学教授や 多くの学生と議論を重ねる中で 愛国や民主化を考えるようになり、中国民主化運動に参加するものの、1989年の天安門事件で 挫折。運動に対して冷やかな一般市民と悶着を起こして大学は退学処分となり、学生を指導した大学教授は外国へ亡命、二人が憧れた女子学生リーダーは行方不明となる。
その後の二人の人生の苦悩や哀歓、成長していく姿を描いていますが、北京五輪を前にした現代中国の実像、心情がリアルに伝わって来るようです。何かを諦め、大人になるということの現実が寂しく、どこか切ない一冊でした。 

♫ 就職が決まって髪を切ってきたとき、もう若くないさ と君に言い訳したね ♬
いつかどこかで聞いたような、読んだようなストーリーで、「学生運動に熱狂した若者が挫折し、その後の平凡な生活に幸せを見出だしていくという小説の 中国版」 という印象は拭いきれませんが、だからこそ読んでみる価値があるように思います。


posted by aozora |20:07 | 本の話 | コメント(2) | トラックバック(0)

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この記事に対するコメント一覧
Re:『流(りゅう)』  東山彰良

ブックオフを覗いてみました。価格強気ですね〜。コスパ❓的にどーでしょう。260円1冊と180円2冊買ってきましたがーーーー

posted by G.G| 2016-04-05 20:38

Re:『流(りゅう)』  東山彰良

そうなんですよ。以前はそうでもなかったのですが、最近は強気の価格設定で、特に新刊本や人気本の場合は割引率がわずかなので、これなら作家さんに印税が入るように一般書店で買おう という気になります。
経営が厳しい為との噂もありますが、どうなのでしょう?
ブックオフが増えたせいで、一時たくさんあった全て半額の古本屋さんが淘汰されてしまったのは痛いです。

posted by 青空| 2016-04-06 08:56

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