2007年03月09日

ディスティネーション・X

我が愛するアメリカンプロレスが(というよりもプロレス一般が)
シナリオによって演出されていること、いわゆる「アングル」の
存在はご存じの方も多いと思います。

最近はあまり足を運べませんが、演劇やミュージカルには台本があり
音楽には楽譜があり、それに基づいたパフォーマンスを楽しむわけです。

イジワルに考えてみましょう。
ガチンコでない、台本のある格闘技を見て何が面白いのか?
毎回同じ結末に向かう演劇を見て何が面白いのか?
楽譜通りに演奏し、決まった歌詞どおりに歌う曲を聴いて何が面白いのか?

私が初めてWWEをスカパー!で見始めた頃、いちばんあっけにとられた
のは、ザ・ロックの必殺技「ピープルズ・エルボー」でした。
最近は映画スターとしてビッグになりすぎてWWEに来てくれない
ロックですが、あのピープルズ・エルボーをご存じの方ならおわかりかと
思います。
どう考えても無意味なアクションによるエルボードロップにすぎない
技に、観客も当初は冷ややかだったそうです。しかもロックはレスラー
一家のサラブレッドとしてデビュー当時から会社のバックアップがあり
その露骨な引き立てへの反発もあって、若い頃のロックは四面楚歌だった
といいます。

しかし、やがてロックは観客のハートをつかんでいくようになりました。
最も大きかったのはその天性のひらめきに満ちたトークの切れ味ですが、
試合の方も衆目を引くようになりました。笑われても貶されても、
ロックはあのピープルズ・エルボーをフィニッシュ技として使い続け、
いつの間にかピープルズ・エルボーはWWE最高の技、とすら称される
ようになりました。

ロックが最初こそ嘲笑されながらも、ついにはファンのハートをつかんだ
のはなぜか。そこにはもちろん「アングル」があり、ヒーローとなるべき
演出をされていました。しかし、ファンはわかるものです。
カリスマにふさわしい実力もないレスラーを、アングルがあろうとも
トップと認めるほどファンは愚かではありません。

引き合いに出したのはロックですが、だれでもいいです。
巨体を維持するために足に古傷の爆弾を抱えつつも十数年も
トップを守り続けているアンダーテイカーでもいい。
膝を痛めてレガースをつけ、強すぎるエゴで自滅しつつも
爽快な悪のヒーローを演じ続けたストーンコールドでもいい。

彼らが愛されたのは、己のパフォーマンスをフルに発揮し続けた
からです。台本のある試合に観客が熱狂するのは、その台本の中で
彼らがいかに己の能力の限り、筋肉と骨のパフォーマンスを発揮
したからです。
楽をしよう、手を抜こうとすれば、観客はあっという間に見限ります。
ビックリするほどに敏感です。
会社がイチオシで「仕立てよう」などとしたらファンは反発します。
台本があっても、作られたヒーローはダメなんです。必死で自分の
能力をアピールし、与えられたロールプレイ以上のものを見せつける
レスラーをファンはリスペクトします。

演劇でもそうでしょう。
オイラが愛する歌舞伎ですが、様式美も相まってストーリーどころか
役者の一挙手一投足すら固定化されきっています。
観客は物語も知っているし、セリフも知っているし、
見栄の切り方すらわかっていて、それに合わせて「成田屋!」と声を
掛けたりすらするわけです。
何が面白いのか、と歌舞伎や演劇に関心のない人は思うでしょう。
しかし、オイラたちはそこで演技を輝かせる役者のパフォーマンス
に陶然とするわけです。

長々とおしゃべりしました。

何を言いたいかはおわかりでしょう。

コンサドーレ札幌、プロサッカーチーム、そのパフォーマンスを
観客は見に来る。

今の自分たちが見せられる最高のパフォーマンスを発揮すること。
彼らがすべきことは、それ。
観客のリスペクトを得、再び試合会場に足を運びたいと思わせること。

勝利は誰もが渇望していることだが、それ以上におそらくは
困難なことだ。だが、それをオイラは願っている。
そして明日はドームに行く予定である。

posted by FT |19:48 | 070310vs鳥栖in札幌ドーム | コメント(3) | トラックバック(0)

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この記事に対するコメント一覧
WW(F)の時代は特に・・・

まさに「お家芸」満載でした。

それぞれが、いろいろなキャラになっても
(ストンコ&カートのお馬鹿キャラとか)
試合内容(=ムーヴ)が完璧なら誰も文句は言いません。
その時に「求められているもの」をしっかり把握していたからに違いない訳で・・・

それぞれが自分の役割を、しっかり把握して
体現できれば
結果は自ずと付いてくると思っています!!!

posted by yous| 2007-03-09 21:40

Re:ディスティネーション・X

へんな事書きます ごめんなさい...

僕はEWCフリークでした。「It's NOT for everyone!」の旗印の下に集まったハードコアフリークにはある矜持がありました...

柳下サカーにもある種、EWCさを感じていました。
昨今「おもしろいサカーとは」論が花盛りですが、本当に青臭く純粋で傷つきやすく、それでいて鋭利で過激な信念を3年間掲げ続けたことだけでも実は僕は満足しています。

いつかまたアクションサカーの旗の下に、またみんなが集結できる日がくると思います。

三浦監督、コンサドーレ初勝利おめでとう

posted by (・∀・)| 2007-03-10 18:53

Re:ディスティネーション・X

<yousさん

ロールプレイ、プラスアルファなんですよね。
アングルの通りに動くことは誰でも出来るけど、
それを上回るきらめきを発揮してこそトップに
行けるわけですな。
正直、カートはTNAに行ってからちょっと
物足りないです(笑)あの二面性のあるキャラが
どこかではじけないかなあ、と思ってます。

<(・∀・) さん

やはり大企業に飼われてしまったECWは
いまいちです。がんばってはいるんですが
旧メンバーの大半はもうフルで戦える状態
じゃないし、活きの良いのはTNAに行ってるし
TVのせいでエクストリームにはなれない。
御大はテコ入れしようとはしていますが、
本質的な基盤が全く異なっちゃったから厳しいですね…。

オイラも心秘かに、札幌には「あたりまえなサッカー
ちーむ」ではいてほしくない、「オンリーワン」な
戦い方をするチームでいてほしい、と思っています。
そういう意味で「面白いサッカー」であってほしいですね。

posted by FT| 2007-03-11 11:17

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