2005年11月10日

「クレイになれなかった男」の今

内藤利朗/写真 沢木耕太郎/文『カシアス』
(スイッチ・パブリッシング ISBN:4884180151)


 昨日、逝ってしまった人の話を書きました。その時、この人の話も併せて一つの文章にしたかったのですが、うまくまとめられそうにないのでやめました。
 カシアス内藤という人の話です。

 私は、さる友人に紹介されて以来、沢木耕太郎さんの一連の作品を読み漁っています。その中に『一瞬の夏』という作品があります。カシアス内藤というボクサーの再起のプロセスを描いたノンフィクションです。しかし、ただその過程を取材したというものではなく、沢木さんはカシアス内藤のジムの移籍問題やマッチメークまで携わっており、トレーナーのエディ・タウンゼント、カメラマンの内藤利朗と共に一つのチームとして「一瞬の夏」を駆け抜けていくのです。私より上の世代には、自らの青春を重ね合わせて読んだ方もおられるのではないでしょうか。


 沢木さん同様、内藤利朗さんもこの過程を収めた『ラストファイト』という写真集を出版していたのですが、それが再編集され『カシアス』というタイトルで出版されていたことを偶然知り、昨日買ってきました。
 カシアス内藤があるボクサーのトレーナーをつとめたこと、ジム開設を目指していることは沢木さんの作品や雑誌の記事で読んで知っていました。『カシアス』にはその過程を記録した写真が新たに収録されています。加えて沢木さんの文章も載っているのですが、それを読んではじめて知りました。

 カシアス内藤がガンに冒されていたことを。

 読んだ時はビックリしたのですが、その後ネットなどで調べたら、根治できなかったものの日常生活を送れるまで回復した彼は、念願のジム開設に成功したようです。ジムのHPを見て、今年の24時間テレビで取り上げられたことも知りました。見れば良かった。

 志半ばにして倒れた者もいれば、文字通り何度も倒されながらも立ち上がる者もいる…

 「クレイになれなかった男」というのは、沢木さんがはじめてカシアス内藤について書いた文章のタイトルです。その中で「いつか、いつかと思いながら、そのいつかがやってこなかった男」として、また『一瞬の夏』で「いつかを再び目指し、再び敗れた男」として描かれた彼が、ガンを乗り越えて漕ぎ着けたジム開設は、その「いつか」になったのでしょうか。

『敗れざる者たち』(文春文庫、「クレイになれなかった男」収録作品)
ISBN:4167209020
『一瞬の夏』(上)(下)(新潮文庫)
ISBN:4101235023(上) 4101235031(下)

E&JカシアスボクシングジムHP
http://okepi.com/cassius/


posted by tottomi |23:23 | 読書管見 | コメント(0) | トラックバック(1)

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