2006年04月03日

読書管見・『タイタンの妖女』


カート・ヴォネガット・ジュニア(著)浅倉久志(訳)『タイタンの妖女』(早川書房 ISBN:4150102627)

 お笑いコンビ・爆笑問題の太田光がもっとも感銘を受けた本としてしばしば紹介しているSF小説。さっき「はてな」で検索かけてみたら、やはり『爆笑問題のススメ』最終回を見て購入した人が多いようです。私もそのクチですが。

 すべての時空にあまねく存在し、神のごとき全能者となったウィンストン・N・ラムファードは、戦いに明け暮れる人類の救済に乗り出す。だが、そのために操られた大富豪コンスタントの運命は悲惨であった。富を失い、記憶を奪われ、太陽系を星から星へと流浪する羽目になったのだ。最後の目的地タイタンで明かされるはずの彼の使命とはいったい何なのか?(裏表紙紹介文より)

 本作が言いたかったこと、漫画版『風の谷のナウシカ』とちょっとだけ重なっているところがあるように思います。(以下、ネタバレあり)



 「時間等曲率漏斗」の中に落ち、過去・未来と現在を自由に行き来できるようになったラムファードは、自分の計画のために、アメリカ随一の富豪、コンスタントを屋敷に招き、自分が「見てきた」コンスタントの将来を伝える。それは「火星に連れて行かれ、ラムファードの妻との間に子供をもうけ、その後水星・地球を経た後土星の衛星タイタンにたどり着く」というものだった。ラムファードの「予言」を拒もうとする彼の妻ビアトリスとコンスタント。しかし…

 コンスタント、ビアトリスのみならずラムファード、果ては人類全体の営みまでもが結局他人に利用されていたに過ぎなかった、しかも何とも下らない目的のために。このことが最後に明かされるのですが、それを受けてビアトリスは次のように語っています。

「『わたしは決して』」とビアトリスは自分の著書を朗読した「『トラルファマドール星の力が、地球の事件となんらかの関係を持ったことを、否定するものではない。しかし、トラルファマドール星に奉仕した人びとは、トラルファマドール星がその事件にはほとんどなんの関係も持たぬと言いうるほどの、極めて個性的な方法で彼らに奉仕したのである』」

 人間はたとえ誰かに操られ、利用されても、それでも自分の意志で生きているんだ、それでいいじゃないか…。こう作者は言いたいのではないでしょうか。


 これと似たテーマををシリアスに描いたのが漫画版『風の谷のナウシカ』であるような気がします。漫画版『ナウシカ』では「汚染された大地と生物を取り替える計画の一環として腐海が造られ、人類も科学者達によって腐海に適応するように造り替えられ、地球の浄化が終われば清浄な世界に耐えられない彼らは用済みになってしまう存在である」という設定になっています。このことを知ったナウシカは、浄化が終わった後の世界を再生する知恵が保存されている「墓所」を破壊するのですが、その際に「たとえ誰かに造られた存在だとしても生命は生命の力で生きている」という意味のことを言っています。
 まぁ、本作と『ナウシカ』の設定する「利用する誰か」は根本的には違うのですが、長くなるのでやめます。


 爆笑・太田はこれを読んで号泣したと聞きます。何のために生きているのか、そうした疑問を抱えていたときに読んだからだそうです。確かにいいこと言っているよな、と思いつつもそこまで感銘を受けなかった私は、とにかく生きていくしかないことを分かっているのか、それとも単にお気楽なだけなのか、よく分かりません。が、きっと明日からも下らないことで笑い、ちょっとしたことで怒りながら生きていくことでしょう。

posted by tottomi |00:36 | 読書管見 | コメント(2) | トラックバック(1)

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読書メモ『タイタンの妖女』 【自由の森学園図書館の本棚】

太田光が、ことあるごとに事務所の名前(タイタン)は、『タイタンの妖女』からとったんだ、と言っていたので、その『タイタンの妖女』ってどんな物語なのかなぁと思い、手に取りました。 SFというか、荒唐無稽でぶっ飛んだ小説だなぁ。 物語の進み具合も、登場人物たちも、どこかおかしいです。世界一といっても良いようなお金持ちで、女たらし(なんて言葉今じゃ使わないかもなぁ・・)の主人公・コンスタントのたどる数奇な人生がまずもって変な感じです。火星に誘拐され、水星へいき、1度地球に戻り、最後には木星の...

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Re:読書管見・『タイタンの妖女』

昔SF少年だったのもあり、この本持っているんですけど、
なにぶん、高校生くらいの頃に読んだので、さっぱり覚えてませんでした。
「猫のゆりかご」や「スローターハウス5」はなんとなく覚えているんですけどね。

で、引っ張り出して、奥付を見たら昭和57年と書いてありました。
自分でもよく持っていたなと思うとともに、忘れてしまっていてちょっと悲しかったです。もう一回読み直してみます。

あと、表紙の絵が当時と変わらないのには感動。
和田誠氏の絵ですね。
若き頃、しばらくヴォガネットと思っていたのは内緒。

posted by kenji | 2006-04-03 22:17

Re:読書管見・『タイタンの妖女』

>kenjiさん

おお、読んだことのある方がおられてちょっと感激です。

実は私は「SF読み」というわけではなく、この本のようにたまたま目についたり、あるいは友人に読むように勧められたりして読むことがある程度です。でもSF独特のスタイルは好きです。妙なところの設定にこっているところとか。子供の頃は「そういう世界があるんだ」と本気で思ったり…(遠い目

posted by tottomi| 2006-04-03 22:33

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