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2007年09月06日

黔驢之技(けんろのぎ)

黔に驢無し。事を好む者有り。船載して以て入り至れば則ち用ふ可き無し。
之を山下に放つ。

虎之を見るに尨然として大物なり。以て神と為す。
林間に蔽れて之を窺う。稍出でて之に近づくに、憖憖然として相知る莫し。
他日驢一たび鳴く。
虎大いに駭きて遠く遁れて、以為へらく且に已を噬まんとす。甚だ恐る。

然れども往来して之を視るに異能無き者に覚ゆ。益其の声に習れ、
又近づきて前後に出づれども、終に敢えて搏たず。稍近づきて益狎れて
蕩倚衝冒す。
驢、怒りに勝えずして之を蹄る。
虎因りて喜びて之を計りて曰く、「技此に止まるのみ」と。
因りて跳踉大敢して其の喉を断ち、其の肉を尽くして乃ち去る。

噫、形の尨なるや、有徳に類し、声の宏なるや、有能に類す。
向し其の技を出ださざれば、虎猛しと雖も疑ひ畏れて卒に敢へて取らざらん。
今、是くの若し。悲しきかな。


   唐・柳宗元

posted by FT |21:34 | コンサドーレ札幌 | コメント(4) | トラックバック(1)