2006年06月27日

「体格」という言葉

 久しぶりにこっちでワールドカップ関連のことでも書いてみます。

 代表のジーコ監督の退任会見が行われました。新聞などで内容をご存じの方も多いでしょうが、「体格」という言葉が問題となっています。「何をいまさら言っているんだ」と。「体の大きな選手にぶつかり合いでは勝てるわけがないから、それを敏捷性や戦術で補うのが日本の目指していたサッカーではないのか」。こういう論調だと思います。が、私が気になるのはこの「体格」という言葉の使い方です。

 まず日本語の「体格」という言葉の辞書的な定義。

たい‐かく【体格】
骨組み・肉づき・太りぐあいなどから見た身体の形。からだつき。「―がいい」(『大辞泉』)

見た目、ですね要するに。我々が体格という言葉を聞いて連想するのもやはり身長・体重などでしょうか。
 次にJ's GOALの会見全文から関係部分を引用。

またワールドカップでは、体格差を強く感じた。上背の問題は仕方ない面もあるが、90分耐えうるベースの問題、たとえば上半身・下半身の強さなどをどんどん鍛えていけば、自分たちの持っている力を発揮できると思う。この体格差の問題は、個々の選手の責任ではない。彼らは、もっと若いうちに技術だけでなくフィジカルの面でも鍛えるという環境になかった。ただ彼らが資質を持ちながら、もっとコンスタントに力を発揮するためには体格も必要な要素だったと思う。

この引用部分、テレビの映像でも見ました。ポルトガル語は全く分からないのですが、「体格差」という部分、それと「もっと若いうちに…」の部分ではいずれも「フィジカ」という音の言葉を使っていたように聞こえました。この単語の訳が「体格」で良いのか、もっと厳密にいえばポルトガル語のこの単語が指す内容と日本語の「体格」という単語の指す内容が100%一致するのか、という問題を考えてみなければならないと思います(ココ、ポルトガル語の知識が全くないので、誰かウリセスに聞いてくれないかなぁw)。

 ジーコの言葉を見ると、「上背の問題は仕方ない面もある」と言っており、身長などの先天的な要素、もともと勝てるわけがない部分は「フィジカ」には含まれていないのではないでしょうか。で、その次の部分を読むと、どうやら「当たり負けしない強さ」のようなものを指していると思います。
 ここでオーストラリア戦に関する部分を引用。

オーストラリア戦の後で、宮本と話したときに『いつもと違う部分の疲れがある』と言っていた。つまり、大きな選手に体を当て、バランスを崩させるために何度もジャンプを繰り返すことで、通常ではない疲れを感じたということだ。

 ちょっとサッカーをやったことのある人なら分かると思いますが、当たりの強さは体重には断じて比例しません。自分と同じくらいの身長・体重なのにぶつかり合いで勝てない相手は、私の周りにもたくさんいます。彼らは多くが小さい頃からの経験者で、私に比べればサッカーにおけるぶつかり合いに必要な筋肉の付き方をしているとともに、ぶつけ方のコツを知っているということでしょう。厳しい言い方になりますが、宮本には世界レベルで耐えられる筋肉・コツがなかったから「違う部分の疲れ」を感じた。ジーコはこのぶつけ方のコツや筋肉の付き方のことを言っているのではないでしょうか。見た目ではなくて、筋肉及び当たり方の問題だとすれば、これは鍛えて何とかなる部分です。

 外国語を解釈することには「訳語が与えられていても微妙なニュアンスは異なる場合が多い」という困難が常につきまといます。最初の引用部分でも、私には同じ単語を使っているように聞こえた部分に「体格」「フィジカル」という二つの語が出ていますし。この記事(スポニチ)も体格を勝手に「身長」と言い換えた挙げ句、「解決できない」とか言っちゃっています。

 そして日本への警鐘として問題点を並べ始めた。ただし内容は分かり切ったものばかりだった。まずはオーストラリア戦で露呈した身長差だ。
 ジーコ監督「(相手が)上背があるのは当然分かっていた。そのために不必要なファウルをしないことを言ってきた。残念ながら体格差で踏みつぶすサッカーはこれからも続く。体格差を克服することが必要だ」
 (中略)体格差という、恐らく解決できない懸案事項を残したまま指揮官は去っていく。

 「体格差を克服する」とは、上背に上背で対抗するという意味ではないでしょう。そういうどうしようもないところを与件だからと諦めるのではなく、体の当て方や体幹の強さを養うことなどで克服する必要がありますよ、と言ってるんじゃないでしょうか。高さではなく平面の話になってしまいますが、今野泰幸はそんなに恵まれた体してませんよね?でも1対1でのボールの取り方はメチャクチャ上手いですよね。それはやはりジーコが言っているような「体格差を克服する」工夫をしているからだと思いますよ。高さの話もしましょうか?ファビオ・カンナバーロ(イタリア)、身長175㎝・体重72㎏。彼強いですよ、空中戦。

 私も含めて、「フィジカル」とか「当たりの強さ」とかいった言葉を安易に使いすぎて、ハナから日本人にはそれらが欠けていると決めつけていたのかも知れません。でも最低限の強さ(ジーコが「90分耐えうるベースの問題」と言っている部分)は必要なのではないでしょうか。気持ちの問題も含めて、育成に携わる人にもそうした危機感を懐く人がいます。もしそうした最後のメッセージまでもが正確に伝わらないとしたら、本当に何も残らない4年間になってしまう。


【追記】
エントリーアップ後、最後に引用した"funSoccerコーチングナビ"に行ってみたらこういうエントリーが。引用したエントリーの続編のようなものですので、リンクを貼っておきます。

posted by tottomi |19:41 | サッカー全般 | コメント(2) | トラックバック(1)

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Re:「体格」という言葉

「先天的な体格」と「後天的な体格」という表現がわかりやすいのでしょうか。
日本代表で後天的な体格をもった選手といえば、ヒデ・イナ・タカくらいなものでしょうか。中澤などは、先天的な体格のわりに後天的な体格の無い選手の判り易い例かもしれませんね。
この課題、選手自身が世界の舞台へ出て行き、自らの体を磨くことしか解決の道は無いのではないでしょうか?
その為には、Jリーグのレベルを上げ世界から少しでも注目されるリーグにし、選手を世界へ送り出すことが必要なのではないでしょうか。

posted by kabao| 2006-06-27 22:00

Re:「体格」という言葉

>kabaoさん
>この課題、選手自身が世界の舞台へ出て行き、自らの体を磨くことしか解決の道は無いのではないでしょうか?
現役の選手については、海外に行くこともひとつの手だと思います。が、その前にJリーグでも出来ることはあると思います。
また、将来的には【追記】でリンク貼ったところにもあるように接触を怖がらないような指導をすることも必要かと。

>その為には、Jリーグのレベルを上げ世界から少しでも注目されるリーグにし、選手を世界へ送り出すことが必要なのではないでしょうか。
確かにそれもありますね。代表として集まって練習する時間が減るというデメリット以上に、選手個人として得るものが多いと思います、海外移籍は。ただし、常時試合に出られるのであれば、です。
でもやはり「海外移籍を促進するため」ではなくて、Jリーグの底上げそのものが目的となるべきかなと思います。海外移籍していく選手だって、多くが最初はJリーグでプレーするのですから。何だかkabaoさんの揚げ足取りみたいになっちゃって恐縮ですが(苦笑

posted by tottomi| 2006-06-27 23:02

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