2008年04月18日

3話

残りは15分弱。時間が無い。

フォワードへのロングボールはすでに手詰まりで、サイド攻撃も一人の選手が単純に縦への突破を試みては失敗することの繰り返しだった。

せめてサイドの局面だけでも数的優位を作ることが出来ればよいのだが、中盤の他の選手に、実行可能な運動量が無い。

こうなってくると消耗させられたのが大きい。

2点差を追うには無理をしてでも攻撃せざるを得ず、効果的な攻撃のためにはボールをもたないフリーランニングなどの「ムダ走り」が不可欠だった。

それが出来ないとなると、選択肢がロングボールだけになってしまう。

勿論ロングボールが有効な場面もあるが、リズムが単調では読まれやすいのもまた事実なのだ。

ロングボールでもせめてもっと人数をかけて攻められれば・・・。

岸中はマンツーマンマークなので、こちらの攻撃陣はフリーにさせてもらえない。

ならば・・・

ボールをセットしたオレは左のケンへショートパス。

ケンは一つ前のウィングバックへグラウンダーのボールを入れる。

左サイドは敵に前をふさがれて、フォローに来たケンを探す。今日何度となく見る流れだった。

カバーに行ってボールをトラップしようとしたケンは、視界の隅に全速力で中盤に達しつつある背番号「22」を見た。

「!!」

反射的にダイレクトでふわりと浮いたボールを、「22」番へ送る。

来た来た・・・信じてたぜ。

全身からアドレナリンが吹き出し、軽い寒気と共に毛穴が開く。

ケンからのボールを何とか進行方向へトラップしたオレは、さらに前方へ仕掛けていく。

案の定、降って沸いた想定外の敵の攻撃にマンツーマンマークは混乱している。

味方のツートップについているディフェンダーがオレの所へボールを取りに行けば、今度は自らのマーカーがフリーになってしまう。

自分だってこの状況なら飛び出すことはしない。計算済み。

次に、横から猛スピードで岸中のボランチが迫ってくる。

狙い通り。

オレにはドリブルでかわす技術もキープする技術も無い。

取りに来たのを受けてマゴマゴしていては、一瞬でボールを取られてしまう。しかしまだボールを失うわけにはいかない。

一度だ。一度だけ相手のチャージを耐えるんだ・・・。

予想通りオレの右半身に相手ボランチの左半身が迫る。

オレはボールを左足に持ち替え、右足に力を入れる。

ドンッ!!

地面に根を張るくらいのつもりで重心を低く身構えていたが、スピードに乗った相手のチャージをもろに受け、結局ぐらついて手をついてしまう。

しかしボールは離さない。すばやく立ち上がった後、「ヤツ」が走りこんで来るであろう左サイドへボールを蹴りだす。

「ひでぇパスだッ」

やっぱり来てるか。

左サイドをそのままオーバーラップしてきたのはケンだった。何とか一瞬タメを作れたおかげでケンが間に合った。

すぐにオレもニアサイドに走り出す。相手ボランチは・・・一瞬遅れている。ケンがクロスの体勢に入る。

「させねーよ」

不意にオレの視界に10の文字が写る。

直後、オレはユニフォームをつかまれていた。

相手の10番が、オレの真横に追いついてきていたのだった。

このタイミングで追いつかれたということは、おそらくオレが駆け出した後すぐに追ってきたってことだ。

「あわてるな!マークを確認しろッ!」

やろう・・・守備の勘もいいのかよ・・・。

オレに相手ディフェンダーが来なければ、ゴール前では丘中のフォワードはしっかりマークされて、数的優位を作れていないはずだ。

オレのオーバーラップでディフェンダーのマークをずらす奇策が敗れた瞬間だった。

モーションに入っており、もう動作を止められないケンは、とにかくニアサイドのオレへ速いクロスボールを入れた。

オレはディフェンダーをひきつけられていない。この「10」に跳ね返されれば、オレとケンのいない自陣へ襲い掛かられる。最悪だ・・・。

その時だった。

「死ぬ気でそらせッ!!!」

右後方から野太い声が聞こえた。

「んなろおぉ!」

雄叫びと共に反射で体が動いた。オレはなおも喰らい付く10番を右手で掴み返しながら、揉み合う様にボールへ飛び込む。

ヘディングで自分の背後へボールをそらしたことを確認すると同時に、土のグラウンドへ胴体着陸する。

ズシャアアア

地面にはいつくばったオレは、ケンのニヤリと笑う顔を見た。

??

振り返ると、コウタまでもが最後尾からオーバーラップし、オレの上げたボールを自身の最高到達点で捕らえていた。

ボールは激しく地面でバウンドし、そしてゴールネットへ突き刺さった。

posted by sweeper |14:58 | ブログ小説 | コメント(0) | トラックバック(0)

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