2009年01月14日
5話
「いや、これはまずい展開になった。」 簡単ではないと思っていたが、丘中がここまで粘り強いチームになっている点は、若干の誤算があったと言わざるを得ない。 岸中を3年で全国レベルにまで鍛え上げた監督の飯田には、学校や地域の指導者達から少なくないプレッシャーがかけられていた。 幸運にも絶対的なエースを手に入れたチームは、飯田の指導もあってさらに力をつけていき、地区予選レベルは楽勝と大方の予想は一致していたからだ。 「いやいや、全体の質はまだまだ岸中に軍配が上がります。」 飯田の昔の教え子で、現在は私立光陽高校サッカー部顧問の神田はニヤリと笑って答えた。 (おそらくジンを見に来たのだろうが、ジンが光陽に行く事は無いな) 飯田は「フン」と鼻を鳴らし、なんだか嬉しそうな神田の横顔から試合へと意識を集中し直す。 最終ラインからの連動したオーバーラップは途中で止まれば追加点は確実だが、止まらなければ今のような決定的なシーンまで必ず行く。 分かれ目だな・・・。 飯田はタッチライン際へ向かい、ポジションの修正を指示した。
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2009年01月13日
4話
一瞬の静寂の後、小さく、そして力強くガッツポーズをしていたコウタに血走った目をした仲間が奇声を発しながら飛びかかっていく。 依然としてリードされている状況にかわりが無いため、オレは暴発しそうになる歓喜の気持ちを力づくで押さえ込み、ゴールに叩き込まれたボールを拾いにいった。 オレたち3バックでむしり取ったゴール。何せ3バック全員オーバーラップしていたのだ。 バランスもクソも無いカミカゼ攻撃。 だが、そのカミカゼに乗って突き刺さったボールは、萎えかけていたチームの気持ちを再び戦いへと誘う不思議な熱さをもっていた。 ボールをもったままコウタに近づく。 「よく上がってたなあ。ナイスヘッド。」 「お前こそよくこっちに上げたな。根性みせてもらったよ。」 ニコリと笑いながらコウタがグーを突き出す。 「オウ。もう1点行くぞ。」とオレもグーを突き出そうとすると、オレの後頭部にチョップが飛ぶ。 「いてッ!」 「2点の間違いだろ!」 ケンがにやけながらも燃える瞳でオレを見つめている。 そうだ。 勝つんだ。 オレたち3人は、センターサークルにボールをセットし、また「一番後ろ」に戻った。 さあきやがれ。すぐに奪ってねじ込んでやる!
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2008年04月18日
3話
残りは15分弱。時間が無い。 フォワードへのロングボールはすでに手詰まりで、サイド攻撃も一人の選手が単純に縦への突破を試みては失敗することの繰り返しだった。 せめてサイドの局面だけでも数的優位を作ることが出来ればよいのだが、中盤の他の選手に、実行可能な運動量が無い。 こうなってくると消耗させられたのが大きい。 2点差を追うには無理をしてでも攻撃せざるを得ず、効果的な攻撃のためにはボールをもたないフリーランニングなどの「ムダ走り」が不可欠だった。 それが出来ないとなると、選択肢がロングボールだけになってしまう。 勿論ロングボールが有効な場面もあるが、リズムが単調では読まれやすいのもまた事実なのだ。 ロングボールでもせめてもっと人数をかけて攻められれば・・・。 岸中はマンツーマンマークなので、こちらの攻撃陣はフリーにさせてもらえない。 ならば・・・ ボールをセットしたオレは左のケンへショートパス。 ケンは一つ前のウィングバックへグラウンダーのボールを入れる。 左サイドは敵に前をふさがれて、フォローに来たケンを探す。今日何度となく見る流れだった。 カバーに行ってボールをトラップしようとしたケンは、視界の隅に全速力で中盤に達しつつある背番号「22」を見た。 「!!」 反射的にダイレクトでふわりと浮いたボールを、「22」番へ送る。 来た来た・・・信じてたぜ。 全身からアドレナリンが吹き出し、軽い寒気と共に毛穴が開く。 ケンからのボールを何とか進行方向へトラップしたオレは、さらに前方へ仕掛けていく。 案の定、降って沸いた想定外の敵の攻撃にマンツーマンマークは混乱している。 味方のツートップについているディフェンダーがオレの所へボールを取りに行けば、今度は自らのマーカーがフリーになってしまう。 自分だってこの状況なら飛び出すことはしない。計算済み。 次に、横から猛スピードで岸中のボランチが迫ってくる。 狙い通り。 オレにはドリブルでかわす技術もキープする技術も無い。 取りに来たのを受けてマゴマゴしていては、一瞬でボールを取られてしまう。しかしまだボールを失うわけにはいかない。 一度だ。一度だけ相手のチャージを耐えるんだ・・・。 予想通りオレの右半身に相手ボランチの左半身が迫る。 オレはボールを左足に持ち替え、右足に力を入れる。 ドンッ!! 地面に根を張るくらいのつもりで重心を低く身構えていたが、スピードに乗った相手のチャージをもろに受け、結局ぐらついて手をついてしまう。 しかしボールは離さない。すばやく立ち上がった後、「ヤツ」が走りこんで来るであろう左サイドへボールを蹴りだす。 「ひでぇパスだッ」 やっぱり来てるか。 左サイドをそのままオーバーラップしてきたのはケンだった。何とか一瞬タメを作れたおかげでケンが間に合った。 すぐにオレもニアサイドに走り出す。相手ボランチは・・・一瞬遅れている。ケンがクロスの体勢に入る。 「させねーよ」 不意にオレの視界に10の文字が写る。
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2008年04月14日
2話
オレが本格的にサッカーを始めたのは中学校に入ってからだった。 小学校の頃は地域のクラブチームでサッカーをしていたが、練習というよりも遊びメインのチームで試合も数えるほどしかしなかった。 進学後にサッカー部に入ったのは、そのころから仲の良かったケンが入部するという話を聞いたからなんとなくだった。 入部してみると、やっぱりキツイ。 基礎がほとんど無いオレは、地域の少年団等でサッカーをしていたヤツらから見ると初心者も同然の状態で、リフティングもロクにできない状態。 1年の最初の練習は球拾いとかばっかりだったから、そいつらとの差を縮めるにはプラスアルファの練習をしなければならなかった。 犬のように走らされまくって吐いたし、同級生がシュート練習している時に、オレは一人壁に向かってパス練をしていた。 だから、遊びの中でさえオフェンシブなポジションをやらせてもらうことなんか一度も無い1年間。
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2008年04月11日
1話
「ピィィィィ!」 タイミングを見て駆け上がったオレは、手を挙げて線審へアピールすると同時に旗を確認する。 よし、上がってる。マイボだ。 時計を確認すると後半15分を経過していた。・・・のこり半分。 前後半1点づつ取られて2点を追いかけなければならないウチは、ここにきてほぼ無意味なロングボールを散発的に相手陣内へ放り込むものの、楽々と相手ディフェンダーに攻撃の芽を摘まれていく。 「きちー・・・」 腰に手を当てながらケンが歩いてくる。 そりゃそうだ。北海道とはいえ、7月の突き刺さるような日差しと勘弁願いたい気温の中、俺ら3人のディフェンスは繰り返し右へ左へ走らされているのだ。 攻撃がまともに機能していないため、すぐに相手ボールになってしまう。 そしてすぐにまた右へ左へ・・・。 「岸中の10番やっぱやべえよ・・・。」 確かに。 ウチの隣の中学である札幌市立岸平中学校のサッカー部には、日本全国各地区のトレセンから選抜されたナショナルトレセンまでいったヤツがいる。 簡単に言うと世代の日本代表クラスだ。
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2008年04月11日
よろしくお願いします。
雑文になるとは思いますが、勉強しながら小説を書いていこうと思いブログをオープンしました。 恥ずかしがらずに思いっきり書きますので、気になる点やご感想お待ちしています。 コンサドーレのサポーターでもありますので、札幌の事も書いていきたいです。 よろしくお願いします。
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