2007年07月12日

「フットボールを読む」夏の10冊・後編

昨日の<「フットボールを読む」夏の10冊・前編>はいかがでしたでしょうか。
昨日のエンターテイメントな感じとは打って変わって、今日はフットボールを「考える」系の5冊を挙げてみる。時にはカルチャーの視点からフットボールを見てみると、面白い発見があるかも。

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・原島由美子『オシムがまだ語っていないこと』(朝日新書)
アジアカップも開催中だしオシムの本でも何か、ということでいわゆる「オシム本」の最新刊を。
「オシム本」といえば『オシムの言葉』『オシムが語る』『イビチャ・オシムの真実』といったところが有名だけど、もうちょっとさくっと読みたいと思ってる人にはこの本をお薦めしたい。本書はジェフ千葉の番記者だった著者によるものなので、ジェフ時代から現在までの最新の「オシム哲学」を知るにはいい一冊なんじゃないだろうか。ただ、新書ゆえの悩ましさというか、政治や祖国といった深いところまで踏み込んでいるわけではないのでそのあたりを知りたくなった人は前述のハードカバー群で補完するのがいいかと。

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・フィリップ・トルシエ『オシムジャパンよ! 日本サッカーへの提言』(アスキー新書)
もうオシムはいろいろ読んだのでという方、もしくはちょっとひねくれた方に。
目先を変えてトルシエが語る「オシムジャパン」を読んでみる、というのもいいんじゃないだろうか。オシムジャパンだけではなく、ジーコジャパンを彼なりに総括した上で案外(といっては失礼だけど)きちんと語ってます。アジアカップに向けての提言もされていてタイムリー。ヨーロッパのスタイルと日本との比較や、彼の日本代表監督時代のことも語られていて充実しています。

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・ドミニック・ボダン(著)/相田淑子(訳)『フーリガンの社会学』(白水社)
フーリガンと聞くと「低所得で労働者階級に属する若者のルサンチマンが凶暴化・暴徒化して現れたもの」と思いがちだけど、実はそうでもないということを教えてくれる本。イングランドでも暴れるのは中産階級で勤務も真面目な30代が増えてきているなんていうのも聞こえてくる時代だし、フーリガンの実態もよく調査してみれば多種多様なんだろう。フランスの人種差別や若者の雇用問題のように、国それぞれが抱える問題というのもあるけど。フーリガンとフーリガニズムとは何なのかということを読み進めつつ、日本のサポーターについて考えてみるといいかもしれない。フットボールの社会思想というつながりで、神野俊史『フットボール都市論―スタジアムの文化闘争』も機会があれば。

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・北村暁夫『ナポリのマラドーナ―イタリアにおける「南」とは何か』(山川出版社)
フーリガニズムの次は南北問題。書いている自分でもディープな選択だよなあと思う。
イタリアというのは先進国の中でも南北問題がとくに顕著といわれ、重工業地帯で欧州の中心に近い北部地方と、両シチリア王国として一次産業を経済の中心にしてきた南イタリアとの経済だけでなく歴史や文化も含めた複雑な格差が存在する。本書では、近年その問題が最も沸点に近くなった瞬間―1990年イタリアW杯準決勝・イタリア対アルゼンチン―と、そのときナポリに所属していたアルゼンチン代表のマラドーナのエピソードから紐解かれていく。正直に言うとフットボールというよりは、かなり社会学や歴史学に寄っているので「フットボール本」を読みたい人は注意。

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・辻谷秋人『サッカーがやってきた ザスパ草津という実験』(生活人新書)
最後はやっぱりJリーグの話で締めたい、ということでこの本。2005年からJ2参入を果たしたザスパ草津とそのクラブにかかわる人々の熱を追ったドキュメント。なにより著者は草津生まれ。かつて草津に存在していたクラブチーム「リエゾン草津」の歴史からどのようにJを目指す空気が生まれ、どのようにして関東リーグから一気にJFL、Jリーグへと駆け上がったのか。サポーターはどのように支えたのか。そして、これから草津を含めたJリーグと地域スポーツ振興への志向を詰め込んだ快書だと言いたい。
企業チームの移転という形で札幌に誕生したコンサドーレとは異なり、下部からクラブをJへ押し上げた一つの回答としてのザスパ草津(や、これからJを目指そうとしている地域のクラブ)の姿というのは札幌とそのサポーターにも何らかの刺激をもたらすはずだ。

そんなわけで昨日今日含めてフットボールにまつわる(そうではないのもちょっと混ぜたけど)本を10冊取り上げてみたけど、短くまとめて紹介文を書くのは予想以上に難しかった。そんな苦労の果ての(たった二日間だけど!)10冊、関心を持った方がいらっしゃったら書店とかAmazonとかで是非に。


posted by ishimori |22:25 | コメント(0) | トラックバック(1)

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