コンサドーレ札幌サポーターズブログ

スポンサーリンク

2006年03月10日

だるまちゃんとてんぐちゃん

 北へ向かう旅客機は定刻に滑走路へと滑り込んでいった。この
場所で彼等を乗せた飛行機を見送るのはもう今年で何年になるの
だろう。

昨日まで降り続いていた雨も今日はあがっていて、空港の展望フ
ロアはそれなりの人数で占められていた。いつもより大きめのバッ
グから、小旗を取り出して頭の上で振った。ほんの刹那、周りの
人達が彼女の事を振り返ったが、その旗の図案を見て納得したの
であろう。またそれぞれにこれから飛び立とうとしている飛行機
に視線を向けなおした。

 ひとりでぱたりぱたりと小旗を、ゆっくりとゆっくりと振り続
ける。彼には、そして選手達には見えているのだろうか。毎年そ
れが気になるが、思い出すのはいつも彼等が去った後で、尋ねた
事はなかった。しかし、いいじゃないかと思うのもいつもの事だっ
た。彼達に見てもらいたくて振ってる訳じゃないから。そんな事
の為に振る旗じゃないんだから。

 腕が痛くなってきて、旗を下ろしてもまだ飛行機は離陸指示を
待っていた。金網に身体を預けながら、ほんの小さな声で呟いて
みる。

「なにも、おそれず、むねをはり、たたかえ....」

彼を初めて見たのはもう20年も前の事。

彼はスターだった。
誰もが彼の名前を知っていたし、どんなに素晴らしい選手である
かも知っていた。
同世代の少女達は彼の事をたちまち好きになったし、もっと彼の
事を知ろうとした。
ただ残念だったのは当時のサッカーは明らかにマイナースポーツ
で、オフサイドというルールを知っている者は極少数だった。
彼の事は好きだけど、ルールはよくわかんないんだもんってなと
ころだった。
だから彼が出場する試合に観客は集まっても、上のカテゴリーの
試合が満員になるような事はなかった。

彼が高校を卒業した後、それでも彼の出る試合を追い掛ける者は
ぐっと数が減った。年をおうごとに彼も過去の選手になっていっ
た。やがて現役を退き、彼は地元チームのコーチになった。いま
や彼の名前の前に「キャー」を付ける人はほとんどいない。

でもやはりまだいるのだ。
いまだに彼の事が好きで、今でも彼の背中を追い掛け続けていて、
オフサイドのルールも判るという元少女が。
彼の名前の前にはもちろん「キャー」だ。


posted by bamboo |17:30 | ただのフィクションだ、ばかやろー | コメント(2) |