2009年12月18日
“チャレンジ&カバー”と“ゾーンディフェンス”。
前回の記事、 “ゾーン”から“チャレンジ&カバー”に変わっても、札幌の守備の課題は変わっていない。2009年12月16日 に対して、色々と表現の不足もあり、反響もありましたので、 もう一度、書いてみたいと思います(-"-;A ...
まず、昨季までの三浦監督の“ゾーンディフェンス”と 今季からの石崎監督の“チャレンジ&カバー”は、何が違って何が同じなのかという点。 大きく違うのは、守備の意識の部分。自分から相手ボールホルダーに積極的に寄っていって “チャレンジ”するのが、石崎監督の“チャレンジ&カバー”。 相手が自分のゾーン(守備範囲)に入ってから、相手のマークに付くのが 三浦監督の“ゾーンディフェンス”。 “チャレンジ&カバー”が、積極的にボール保持者に寄って行くのに対して、 “ゾーンディフェンス”は、相手が来るのを待って、引き込む感じ。 だから、網を張って待ち構えるとか、守備ブロックを作って待ち構える、 “受身”という表現がされます。 その点では、確かに意識の持ち方が、180度違います。 しかし、だからといって、“チャレンジ&カバー”が、 ゾーンディフェンスと180度違う守り方をしていたり、 人に付くマンツーマンディフェンスなのかというと、それは違います。 なぜなら、どちらもまず、積極的か受身かは別としても、ボールホルダーに対して、 プレッシャーをかけに行きます。(※下図1参照。) すると、守備側の一人が相手に寄ったことでそこにスペースができます。 (※下図2参照。) そのスペースを埋める動きのことを“絞る”とか、“カバーリング”と呼びます。 (※絞るのは、どちらかで良い。) この一連の動きは、三浦監督の“ゾーンディフェンス”も 石崎監督の“チャレンジ&カバー”も同じだからです。
・図1 (◎…ボールホルダー、〇…守備側) ◎ ↓ ↑ 〇 〇 〇
・図2 ◎ 〇 〇→ (←)〇
守備側は、基本的に幾重にもラインをつくって守備をします。 人を横に並べることで、ボールを前に運べないように 幾重にも壁をつくると考えればいいでしょうか。 守備をする時に、人を危ないところに隙間なく並べるというこの発想が、 そもそもゾーンディフェンスの考え方です。 そして、守備側が動くことでできるスペースを埋める(=カバーリング)という考え方も、 ゾーンディフェンスの考え方です。 ですから、“チャレンジ&カバー”も“ゾーンディフェンス”なのです。
一般的に普及している、“ゾーンディフェンス”が自分のゾーン(守備範囲)を守り、 “マンツーマンディフェンス”は、マン(人)に付くという説明は、 ある意味正しくて、ある意味間違っています。 まず、完全にオールコートで、1対1で人に常に付いて守るのが、 狭い意味でのマンツーマンディフェンスです。 一方、ゾーンディフェスは、 相手に利用されるスペースをつくらないことが最も大事な点とされます。 つまり、危ないところに人を置いて、相手の侵入を許さず守るのが ゾーンディフェンスということになります。 CMで、ゴール前にたくさんのキーパーを並べたり、巨大なキーパーを置くCMがありますが、 ゾーンの究極的な考えは、アレだといえます。 将棋でいうと、将棋は、一番最初の形が最も堅いといわれます。 動かすので隙が出来るともいえます。(ただ、動かさなければ攻めることもできませんが(-"-;A ...) しかし、完全な理想の形でマンツーマンディフェンスや ゾーンディフェンスを行っているチームはありません。 まず、完全な形でマンツーマンディフェンスをすると、 1対1での能力差が出やすくなります。 まして、現代サッカーは、SBが攻撃参加しますから、それに付いていくとなると、 マークする対面のFWは、ボールを持って上がる相手SBを追いかけて、 自陣の深い位置まで戻らなければならないことになります。 これを攻守の切り替えのある度に行うと、スタミナが持ちません。 一方、完全なゾーンディフェンスをしようとすると、一歩も動けなくなります。 危ないところに人を置くわけですから、動くと危険なスペースができてしまうからです。 (※だから、動いた後にできる危ないスペースを埋めるカバーリングが必要。) しかし、サッカーはコートが広いので、 11人では危ないところ全てに人を置いて守ることができません。 ですから、ゾーンディフェンスであっても、 ボールホルダーに合わせてゾーンそのものも動く必要があります。 また、前回もバスケの例を出しましたが、 ボールホルダーに対してノープレッシャーだとゾーンの中に入れなくても、 ゾーンの外側から攻撃を許すことになります。 (※サッカーだと、ミドルシュートやクロス。バスケなら3ポイントシュート。) したがって、ゾーンを守ることを優先するゾーンディフェンスであっても、 ボールホルダーに対してノープレッシャーで良いということにはなりません。 つまり、ゾーンディフェンスであっても、人に付いて守備をしなければなりません。
したがって、現代サッカーでは、どのチームも基本的にゾーンディフェンスで守っています。 (※相手のキーマンに対して、マンツーマンで守るということはあります。) 違いがあるとすれば、“どこからどこまで人に付いていくか”という判断の違いでしかありません。 一見、三浦監督の“ゾーンディフェンス”と石崎監督の“チャレンジ&カバー”では、 守り方が異なるように見えますが、大きく守り方が変化しているわけではないのです。 (※実際、カバーリングの上手い芳賀や西は、監督が代わっても試合に出ている。) 全てのチームが、マンツーマンディフェンスとゾーンディフェンスの中間の守備を行っています。 “人に付く”要素が強くなるとマンツーマン寄りの守り方になりますが、 同時に、マンツーマンのデメリットである1対1の差も出やすくなります。 逆に、“人に付く”要素を弱めて組織的に守れば、個人の差は出にくくなります。 (※ゾーンの要素を強くすると、マークの受け渡しが非常に難しくなります。) 昨季は、それでも個人の差を埋めきれずに降格したといえます。 したがって、個々の守備能力の向上がJ1昇格と残留へのキーと考えるべきです。 (※もしくは、より組織的な守備を磨くかです。) 昨季も今季も、積極的にボールへチャレンジするか、相手を引き込むかの違いはありますが、 どちらも広い意味でゾーンディフェンスであり、ボールホルダーへの1対1のプレッシャーと スペースを埋めるカバーリングのセットで、それが重要である点は変わりません。 今季も守備が破綻気味でしたが、 それは戦術が変わって慣れるまで時間がかかったというよりも、 昨季も今季も選手が同じ課題を抱えていたからだと思うのです。
posted by whiteowl |14:30 | Tactics (戦術) | コメント(5) | トラックバック(1)
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“チャレンジ&カバー”と“ゾーンディフェンス”。 - whiteowl's Point of View | コンサドーレ札幌オフィシャルブログ
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Re:“チャレンジ&カバー”と“ゾーンディフェンス”。
かなりご無沙汰してしまいました。
"忙殺"でした(-_-;)
未だに最終節を観られていなかったりする始末…(苦笑)
>昨季も今季も、積極的にボールへチャレンジするか、相手を引き込むかの違いはありますが、どちらも広い意味でゾーンディフェンスであり、ボールホルダーへの1対1のプレッシャーとスペースを埋めるカバーリングのセットで、それが重要である点は変わりません。
そのとおりと思います。
"ボールホルダーへの1対1のプレッシャー"については、J2レベルだと"しっかりした守備ブロック"を作っていれば、不要になる場合もあると思いますが、それでは、上で通用するサッカーにはならない。守備が受け身に偏らないことは、重要と思います。
"カバーリング"は最重要ですね。今季の戦術では、昨季以上に重要だったのですが、なかなか上手くはいっていなかったように感じます。
"危険なスペースを埋められるか"がポイントと思いますが、それには"状況判断力"というか"危機察知能力"が必要…それがあってはじめて"よいポジショニング"ができる。そんなふうに思います。
危険ではないスペースに人を置いておいても無駄。組織的に"危険なスペース潰し"ができるかどうかで、"チャレンジ&カバー"の成熟度が変わってくるのでしょう。今季は正直、及第点のカバーを見せていたのは、芳賀、石川、西ぐらいですかね…。西嶋もいい線は行っていたと思うのですが、もう少し精度を上げられるはず(期待を込めてますが)。
ゲームが無いと基本的に自分のブログは更新しない(「観戦力向上覚書」ってタイトルだし…)ので、オフの間は度々お邪魔させてください(長文コメで本当にお邪魔なんで恐縮ですが)!
来シーズン妄想なんかも楽しみにしています(笑)
posted by はげお| 2009-12-18 23:10
Re:“チャレンジ&カバー”と“ゾーンディフェンス”。のお返事。(はげおさんへ)
お疲れさまです!
>J2レベルだと"しっかりした守備ブロック"を作っていれば、不要になる場合もある
これが、2007年ですよね。そして、それがJ1で通用しなかった2008年(苦笑)。
>守備が受け身に偏らない
カウンターに上手くつなげられれば良かったんでしょうけどね(-"-;A ...
守ってばかりで、攻撃しないと辛いですからね・・・。
>"状況判断力"というか"危機察知能力"が必要
そうですね。前回のコメントで、Ryosukeさんも書いていましたが、
来季への課題はそこだと思います。
>及第点のカバーを見せていたのは、芳賀、石川、西ぐらい
2008年は、石川はいませんでしたが、
他の二人は、三浦監督時代もしっかりカバーリングしてましたね。
だから、石崎監督になってもしっかり動けているのだと思います。
オフの間は、試合がないので面白いネタが提供できるかどうかはわかりませんが、
こちらこそよろしくお願いします。
posted by whiteowl| 2009-12-18 23:34
Re:“チャレンジ&カバー”と“ゾーンディフェンス”。
補足(あるいは蛇足)。
石崎札幌では相手のドリブルは縦に切るように意識しているように思われます(あくまでも私見ですが。whiteowlさんの意見聞きたいです)。だから絞る動きはより判りやすいですよね。しかし調子が良い時ほど、周りはそこでカットした先を考えて攻めに切り替えている。だから、うまく行かないとガッパリ穴ができて“おいおい、マジかよ”という失点シーンになる(これぞ“押しているとばかり思っていたら呆気なく失点”の法則)。
対して、三浦札幌では、絞るよりも受け渡すことを重視していました(まあ、この辺をwhiteowlさんに言うのは釈迦に説法ですが)。どっちかというと、抜かれた先の後ろにもう一枚(一列)ある状態を維持することが大事だった。ただ、仰るとおり、J1に行って、個で負けることが多くなると負のイメージを強めてしまいましたが(つまり“何枚並べても列の隙間を抜かれたらあえなく失点”の悲劇)。
ちなみに3バックの両サイドが常時攻撃体制にあったのが一番格好良かった時の柳下札幌。曽田を残して加賀と西嶋は攻撃参加(云わば“失点しない方がどうかしているが、はまれば大漁”の道理≒ギャンブルサッカーby反町)。
で、やられた時に一番納得できるのは…やっぱり最後のやつじゃないですか?ねえ(笑)。
posted by MasaMaru| 2009-12-19 00:57
Re:“チャレンジ&カバー”と“ゾーンディフェンス”。のお返事。(MasaMaruさんへ)
>石崎札幌では相手のドリブルは縦に切るように意識
石崎監督自身が、まず縦を切ることの重要性をインタビューで答えていたように思います。
今回は守備戦術から、縦のスペースを埋めることの重要性を書いていますが、
これは裏を返せば、攻撃する時は、このプレスによって生み出される縦のスペースを
上手く突く攻撃が効果的であることも示唆しています。
(そうでなければ、そこまで必死に穴を埋める作業をする必要がない。)
実際、攻撃時は、上手いチームほど意図的にこのギャップを生み出そうとしていますし、
生み出したギャップに入り込もうとしています。
>周りはそこでカットした先を考えて攻めに切り替え
だから、結局、1対1での強さが重要になってくる。
数的優位をつくるとしても、基本は1対1ですしね。
1対1で勝っていれば破綻しないので調子のいいときはいいのですが、
1対1で負けたときにどうするか。しかも、頻繁に負けるようなら、
チャレンジそのものが萎縮してしまう可能性がある。
あとは、悪循環ですよね(・_・;
>三浦札幌では、絞るよりも受け渡すことを重視
絞りが重要になってくるのは、大きくスペースを空けたときです。
2007年の昇格時は、大きくスペースを空けることがなかったので、
仰るとおり絞ることより、むしろスペースを作らないように
マークの受け渡しを重視しても、問題にならなかった。
しかし、J1に上がると、それではプレッシャーが弱く、ゾーンの外から攻撃された。
そこで、昨季の後半からプレスを強めて絞りをしっかりするように
守備をマイナーチェンジしています。
この頃の守備は、今の守備とあまり変わらないと思います。
確かに、ゾーンのデメリットは、マークの受け渡しなのですが、
どんな守備戦術でも、基本となる1対1で負け続ければ、その不利を覆せません。
石崎監督は、明確に、“カバー”と謳っているので、
リスクマネージメントをしなくて良いとは考えていないはずです。
最も、ヤンツーも、守備ができないなら、無理して守備をやらせるより、
攻撃しちゃえ!って感じだったと思うのです(-"-;A ...
posted by whiteowl| 2009-12-20 11:56
Re:“チャレンジ&カバー”と“ゾーンディフェンス”。
最も、ヤンツーも、守備ができないなら、無理して守備をやらせるより、
攻撃しちゃえ!って感じだったと思うのです(-"-;A ...
posted by biker gloves online | 2017-08-28 17:31