2007年01月15日

読書管見・『敗因と』


金子達仁・戸塚啓・木崎伸也『敗因と』(光文社、ISBN:4334975127)

 サッカーW杯2006・ドイツ大会における日本代表の「内部崩壊」、その真相に迫ったノンフィクション。
 
 まず断っておかなければならないのは、この本は「チームの内情」に焦点を絞った内容になっているため、ドイツにおける代表の戦いぶり、とりわけ戦術的な部分についてはほとんどページを割いていません。だからピッチ上での代表について読みたい人にはお薦めしません。が、それを差し引いても読む価値はあると思います。些か「ゴシップ記事集成」めいたところはありますが。

(ここから先は内容に触れています)
 


 本書は三人のライターによる分筆形式をとっており、関係者に対するインタビューを基に構成されています。一見するとそれぞれバラバラのことを言っているように見えますが、よく読むと何となく一本の線が引かれているように見えます。私なりにその線を手繰りながら各章の内容を簡単に紹介し、併せて感想も書いてみます。

  • プロローグ「最期」

 ブラジル戦終了後の「900秒」と、中田英寿のチームメイトであったアドリアーノのインタビューを中心に構成されています。読み返すたびに、あの時のやり場のない怒りが蘇ってきます。「こんなハズじゃなかったのに…」という言葉も。
 ピッチにひっくり返っている中田英寿のもとに宮本を除いて代表の選手達が行こうとしなかったこと、これが今大会の代表を象徴していたことが示されています。
 導入としてはまずまずだと思います。ただ、ここで中田英寿を巡るエピソードを中心に据えてしまったのは、読者の誤読を招く元になってしまっているのではないでしょうか。実際ネットを泳いでみるとこの本を「ヒデ批判」あるいは逆に「ヒデ擁護」と捉えたレビューが多く見られました。そうしたステレオタイプのチーム批判に抗いたい、という構想があったとすれば(実際そうだと思うのですが)、もう少し書きようがあったのではないでしょうか。

  • 第1章「愛憎」

 フェネルバフチェ監督となってからのジーコへのインタビュー及びオーストラリア戦のレビュー。本人の理想と日本サッカー、代表選手とのズレが語られています。
 ジーコがいかに日本サッカーを想っているのかは分かりました。でも、やはりタイミングが悪かったな、と思います。ジーコが思うほど日本は成熟していなかった…

  • 第2章「団結」

 藤田俊哉・三浦淳宏・土肥洋一へのインタビュー。ベテランのサブメンバーから見たチームと、「リーダーの不在」がチーム崩壊の一つの要因であったことが示されています。
 個人的に一番胸に迫るモノがあったのはこの章です。

  • 第3章「確執」

 「海外組」と「国内組」の溝が形成されていく過程が述べられています。
 リーダー不在による「グループ」の形成、ケガによる長期離脱が招いた中田英寿の孤立、中田浩二の役回りなどに加えて、ジーコへの不満からスケープゴートにされていく中田英寿・宮本恒靖・アレックス。アレックスはプレーでも孤立していたのでそうではないかとうすうす感じていましたが、宮本については僕は知りませんでした。

  • 第4章「七色」

 ヒディンクへのインタビュー。監督としてのジーコとの器の違いを語りたいようですが、ちょっとインタビュアーの存在が勝ちすぎている嫌いがあります。「自分が彼の本音を引き出した」と、感じても書いてはいけないと思います。

  • 第5章「晩餐」

 クロアチア戦3日前の日本料理屋での出来事と、大会後のエピソード。
 「例の『日の丸サイン事件』が起きた日」とされていますが、これが誤解であることは、僕は『サッカー批評』で土肥が語っているのを読んで知っていましたから、さしたる驚きはありませんでした。むしろ、「どうしようもなくなってなお何とかしようとする中田英寿」と「一般のファンを平気でシカトする中田英寿」のコントラストというか、この人の特殊さが印象的です。念のために付け加えておきますが、それが良いとか悪いとかが言いたいのではありません。

  • 第6章「齟齬」

 「DFラインの高さ」をめぐる対立について書かれています。
 守備の基礎的な約束事ができていたトルシエのチームで大会中に起きた対立が、「高いラインを要求する監督と必要以上に上げたくないDFライン」の間で起こったものであり、従ってピッチ上ではディフェンダー同士の微調整で済むレベルであったのに対し、今大会の対立が「前と後ろ」という、文字通りチームを二分するレベルでの話になってしまったため容易に解決できなかったという指摘は非常に明快で説得力があります。余談ですがこの点を指摘しているのは中田浩二で、オシムが彼を招集してくれる日を僕は心待ちにしています。

  • 第7章「消極」

 クロアチア戦。この「クソゲーム」を伝えたクロアチアとドイツの実況ブースを中心に、「アタッカーの不在」という戦術的な敗因のひとつを挙げています。

  • 第8章「落涙」

 ブラジル戦。あらためてこうして文字にされてみてみると、いかに絶望的な戦いをしていたかを思い知らされます。

  • 第9章「敗因と」

 「敗因は、ひとつではない。」
 さまざま挙げてきた敗因と思しき要素を前にして、それでも敗因を一つに求めるべきではない、という主張ののちに、「彼らの戦いが胸に響かなかった理由」の一つとして「目標と負荷」の欠如を、前園真聖の回想から指摘しています。

 全体を読み終えて。本としては好き嫌いが分かれるでしょうね。さっきも書きましたが基本的に「ゴシップ本」ですから。でも、代表選手だろうが何だろうがサッカーやるのは所詮人間であり、人の絆を結べないチームは絶対に勝てない、ということがよく分かる一冊です。
 最後の指摘は確かにそうかなと思います。何となく「前よりはいけるでしょ」と僕も思っていたふしがある。そして、そういう温い(ぬるい)雰囲気が、彼らだけでなく協会にも、周囲にも蔓延していたという指摘は、札幌をサポートする我々も耳を傾けるべきなのかも知れません。だからといって選手を手厳しく批判しろとか殺気立った応援をしろとか、そういうわけではありませんが、「うねり」みたいなものを生み出していかないと、ですね。
 
 札幌も、ある意味で代表と同じような経験をしたチームと言えます。「こんなハズじゃなかった」で終わらないように、今年はいい年にしたいものです。

posted by tottomi |23:59 | 読書管見 | コメント(0) | トラックバック(1)

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