2012年01月29日
奇跡が起きた日[フィギュアスケート]
フィギュアスケート・ユーロ選手権男子シングル終了。 いや、ね。 本当にもう。 奇跡を見たと思ったよ……! エフゲニー・プルシェンコ、7度目の優勝!!!! マジで!色んな意味で有り得ねえ!!!! そもそも、今回は試合始まる前からかなりヤバい状態だった。 もともと、この試合が終わったら膝の手術を受ける予定だったけど。 試合前にはもう、その膝がかなり痛み出していて。 さらには予選の2日前の練習中に背中を痛めて、その影響で首が回らない状態で。 そうじゃなくてもポイントランキングの順位の関係で、予選からの出場になって、余分に1回演技しなくちゃいけない・ってのに。 今のジェーニャの歳で、身体の状態で、1回多くFSを滑る・って事は、はっきり言って相当のハンデ。 なのに加えてこの状態……! 予選の演技は、はっきり言ってかなり辛そうだった。 後半、明らかにスタミナ切れで。 スピンもステップも、勢いが無い。 演技後の本人の顔も、疲れ切ってた。 怪我の影響もあるけど、もう体力的に辛いんじゃないのか。 てか、そもそもまだ試合に出ていい様な状態まで回復してないんじゃ……。 去年の6月に半月板切除と脊椎神経焼却の手術を受けて。 復帰を焦るあまり、オーバートレーニングになってしまい、身体に余計な負荷をかけて。 その後、受けた治療で、医者が「関節内に打つべき注射を筋肉に打つ」という、考えられないような初歩的なミス。 その結果、膝の状態を更に悪化させた。 秋のテストスケートで、まだ負担をかけちゃいけない時期なのに、無理して4T跳んで。 結局その後また、絶対安静を言い渡されて。 年末のナショナルの時には、調子は大分良くなっていたけど。 そのあとやっぱり、悪化した。 もう、全身に蓄積されたダメージが半端じゃないんだろう。 本当なら、この試合も出ないで直ぐにでも手術した方が良かったんじゃないだろうか。 そんな懸念を持ってしまうぐらい、厳しい状態での出場だったから。 SPでは、恐らく本人にとっても初めてのクワド回避。 「跳ばない」のではなく、「跳びたくても跳べない」 安全策で跳ばないのではなく、入れたくても身体状態的に入れる訳にはいかない。 「回避するか棄権するか」その2択だから、「回避して出場」を選んだ。 そこまで限界のはず……だった。 ……ベテランクワド持ちがクワド封印してSP出たら、どんだけ余裕かました演技になるかは、NHK杯の大輔やロステレのアボで知ってたけどw ジャンプノーミス当たり前。 3Lz-3Tと3Aはどっちも、着氷から直で振り付けに入る余裕。 スピンもステップも、キレは予選とは別人。 演技自体に、アイスショー並みの余裕……! 本人が、何よりも楽しんで滑っている。 その事が、ライブストリームの小さな画面からでも伝わってくる演技だった。 SP終わって首位のガチンスキーとは0.09差の2位。 更に4位のフェルナンデスまでが5点以内。 そして最終グループになる6位まで差は8点程で、PCSが4点以内という、ある意味好条件。 「試合」としては、非常に盛り上がる結果になったけれど。 ジェーニャの身体としては、それどころじゃなかった。 「膝には常に突き刺す様な痛みがある」 「痛み止めの注射は5本打った」 「でも助けにはなっていない」 「試合に出ないで逃げる事はしたくない」 「フリーには出る。朝、起き上がれない事にならない限りは」 SP後に出てくる、今の状態の悲惨さ。 ……その身体で出るのはもう、自殺行為に等しいんじゃないか・とすら思った。 FSでもクワド回避の可能性はある。 というか、身体が大事なら、むしろ跳ぶなと言いたい……! 本人は跳ぶかどうか解らない・と言い。 ミーシンコーチは、まだ回避すると決まった訳じゃない・と言う。 いやでも、今、この状態で回避しても、誰も何も言わないから!!!! だから無理しないでくれーーー!!!! ……そう言いたかったけど。 決めるのは、本人。 そして、コーチと主治医だから。 もうそれを信じるしか無いと思った。 FSの構成表には、しっかりと4Tが入っていると知って。 とにかく、身体と体力が保つことを祈るしか無くて。 でも、演技が始まる瞬間の、研ぎすまされたような真っ直ぐな瞳に、本人の想いを見た様な気がした。 4Tの為の助走に入った瞬間、息を飲んだけど、今季初のクリーンな着氷。 後は祈るのも忘れて、ただ見入る。 相変わらずライブストリームはしょっちゅう固まるけど。 それでも、端々から見える、その『力』。 役に入り込み、演ずる事自体を喜び、演技の為にエレメンツをこなす。 エレメンツの為のプロではなく、プロの表現の一環としてエレメンツをやる。 そんな、フィギュアスケートの本質そのものの演技。 大きなミスは一つもなく。 プロトコルに、ちょっと厳し過ぎじゃね?・ってマイナスが若干付いただけで。 この状態で、クワド入りで演技を終えたよ!!!! マジで、奇跡だと思った……!!!! ミスなく演技を終えれた。 それでもう充分だと思った。 暫定首位に立ったけど、残りの4人の出来でどうなるか解らない。 でも、この出来のジェーニャを上回って勝つのなら何の文句も無い。 むしろ、新しいユーロ王者になるなら、そのぐらいやってくれなきゃ!! あつらえたように、残り4人は全員期待の若手。 越えてみせろ、この人を!!!! そんな気持ちで見守った残りの4人だったけど。 結果として、ジェーニャ以上の演技が出来た人はいなくて。 ガチなんかは、そうとう惜しい所まで行ってたけど。 でもやっぱりPCSには否応なく差が出てしまい。 最終滑走のアモディオの得点が出た瞬間、ジェーニャの7度目のユーロタイトル獲得が決まった。 7度目の優勝は史上第3位の記録。 しかも、最高記録である9度の優勝をなし得た選手は1898年~1913年にかけて、第2位の8度優勝した選手も1929年~1936年と、半世紀以上前の出来事。 この記録だけでも、偉業なのに。 体力的には限界を越えた29歳という歳で。 2度もブランクを空けて。 年々複雑化するルールにしっかりと対応して。 加えてこの身体の状態で。 ブランク空けの優勝よりも、この身体で最後まで演じ抜けた事が奇跡だと思った。 ホントにね……! 途中棄権とかにならなくて良かったーーーッ!!!! も、マジで……。 どんだけ最悪の事態に怯えたか……! 転倒して途中棄権や、その怪我が原因で選手生命を絶たれるとか……!!! 杞憂じゃなく、本気で思ったよーーー!!! ホント……どこから来るんだろ、この人の力は。 痛み止め効かない・って言ってただろお前……。 どんだけ酷い痛みを抱えてるのか解らないってのに。 アドレナリンで全部蹴散らしたんだろか。 不屈の精神力って、本当にあるんだなぁ。 手負いでもやっぱり絶対王者なんだ。 その銘に、これ以上相応しい人は、まだいない。 でも、この人をここまで駆り立てるのは、勢いのある若手達の存在だから。 だから、頑張れ若手達。 あと2年で越えてみせろ。 実力でも。精神力でも。 その存在でも。 あらゆる意味で、エフゲニー・プルシェンコを越えてみせてくれ。 その精神力で、奇跡すら呼び起こした男を。 SP TSS84.71 TES42.21 PCS42.50 プロトコル FS TSS176.52 TES87.68 PCS88.84 プロトコル POINT 261.23 予選FS「ロクサーヌのタンゴ」(客席撮影) SP「四季 夏よりStorm」 FS「ロクサーヌのタンゴ」