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2007年11月20日

わかりやすい(?)減資の話

コンサドーレ札幌の運営会社である株式会社北海道フットボールクラブ(HFC)が減資をする、との報道がなされています。自分で確認した限りでは、北海道新聞、道新スポーツ、日本経済新聞の各紙で伝えられています。

ところで減資って何?というのは、わかっているようで意外にわからないことだと思いますので、以下、私なりの解釈で、説明してみます(わかっている方には「何を偉そうに」と思われるかもしれませんが、そう思ったら、以下は読んでいただかなくて結構です)。

☆はじめに、ややくどい注意書き

※誰か(HFCの関係者等)に頼まれてこんなことをしているのではなく、自発的行動です。

※以下は、上記の各紙報道の情報を元にしています(どこかから秘密情報を入手したようなことは、一切ありません)。

※以下の中には、過去の関係者を擁護するように読める箇所もあるかと思いますが、そのような意図はまったくありません。私自身の経験(このブログサービスの運営会社の立ち上げのみならず、自分が社長かつ最大出資者の会社の立ち上げや経営、その他コンサルティング経験等々)からいうと、事業を始める(≒会社を作る)ときはとにかく「勢い」で始めてしまい、気が付いてみたら「あれ?なんでこんなことになってるの?」という状態になっていることは、よくあります。あとになってから批判するのは簡単ですが、そこに至る途中で、経営(単純に日々のお金のやり繰りということだけでなく、資本構成のチェックなども含む、広い意味での経営)の間違いに気がつくことは、そう簡単なことではありません。

※わかりやすくするために、話を単純化させているので、厳密にはおかしなところもあるかもしれませんが、ご容赦ください(blogなので、あまり詳しく書いても、長くなるだけでかえって読みにくいかと…)。

※こういうテーマなので、一人称は「私」を使いますが、書いているのはいつもと同じ大熊です。

■いま、何をしようとしているのか?

Jリーグが求めるJ1昇格の条件の一つに「運営会社の債務超過の解消」があるため、HFCは何らかの手段で債務超過を解消しなければなりません。そこで、今般の報道によると、減資、のち、増資により、債務超過の解消をはかる、とのことです。

■ところで債務超過って何?

教科書的にいえば「負債の額が資産の額を超過すること」です。それがなぜいけないのか?というと、
(1)もし何らかの事情で会社を解散することになったとき、負債(簡単にいえば借金)の額が資産の額よりも大きければ、資産をすべて処分しても負債が残ってしまう。
(2)つまり、お金を貸している側からみれば、貸したお金が返ってこないことになる。
(3)そんな会社に、あらためてお金を貸す人は、普通はいない。
(4)そんな会社に、あらためて投資してお金を出してくれる人も、普通はいない。
(5)したがって、万が一、一時的であってもお金が足りなくなったときには(会社経営上、そういうことはよくある)、会社そのものがつぶれてしまうリスクが高まる。

ここで、「いやコンサドーレはみんなに夢を与える存在だから、お金ではかれない価値が」などと、経済的観点以外の価値基準を持ち出されても困ります。世の中というのは、そういうものなので、「それはおかしいんじゃないか?」と思っても、とりあえず、我慢して納得してください。

■HFCはなんで債務超過になったの?

事業を始めるときには、その母体となる組織として、会社などを作ります(かならずしも「事業を始める」=「会社を作る」ではありませんが、その辺の説明はここでは省略)。ここで「会社など」としたのは、株式会社以外に、NPO法人や公益法人といった形態もあるからです。Jリーグでも、モンテディオ山形の運営会社が「社団法人」になっています。

会社を作るときに必要なのが「資本金」です。みんなからお金を集めて運営資金にしましょう、というお金ですが、これは、サークルの会費ではありません。サークルの会費であれば、運営費に使いきってはいおしまい、でも、問題ありませんが、株式会社の場合は、一般に、資本金を元手にして、お金を増やしていくことが求められます。そして、増えたお金を、さらなる事業の拡大に使うのが、一般的な株式会社の仕組みです。

ところが、HFCの場合は(HFCに限らず、世の中全般でよくあることなのですが)、最初に集めた巨額の資本金を、すっかり使い切ってしまいました。巷間いわれているように「とにかくJリーグ(現在のJ1)へ昇格するんだ、昇格すれば儲かるようになる、使ったお金はすぐに戻ってくるだろう」「使ったお金を取り戻すにはチームを強くしなければならない、そのためにはお金を使わなければ」と、選手人件費などに、どんどんお金を使ってしまったからです。

一般の会社なら、資本金がなくなって、儲けも出ていないとなれば、その時点でお金がまわらなくなって、おしまいです。使う金(選手・スタッフの給料)は必要、しかし入ってくるお金だけでは足りない、貯金もない、となれば、あとは誰か他人から借りるしかありませんが、そんなところへお金を貸す人は、普通なら、いません。しかし、HFC(というより「コンサドーレ」)に期待するさまざまな人たちが、そんなことは何も考えずに、お金を貸したり、出資に応じたりしてきたから(サポーター的にはとてもありがたいことです)、現在に至るまで、HFCという会社は存続しています。

ちなみに私は、1997年のサポーターズ持ち株会の募集に応じています。

■どうすれば債務超過は解消するの?

会計上、「資産」は「負債」と「資本」の合計と定義されています(などと言われると、私はすぐ「どうして?」と思ってしまうのですが、とりあえず、ここでは、そういうきまりだと認識しておいてください)。「資本」は(単純化すると)「資本金」から「累積赤字額」を差し引いた額です。

資産=負債+資本
  =負債+(資本金-累積赤字)

上で説明したように、債務超過というのは、負債が資産を上回っている状態です。債務超過を解消するにあたり、負債(借金)の額が変わらないのであれば、資本を大きくすることによって資産を大きくするしかありません。

上の式の通り、資本は「資本金-累積赤字」です。HFCの昨年度決算では、資本金2,556百万円に対し、累積赤字は2,754百万円なので、資本は(2,556-2,754=)マイナス198百万円になります。したがって、この場合、資本を大きくすることは、まずはこのマイナス幅を小さくすることから始めなければなりません。

そのためにすぐ思いつく手段は、資本金を大きくすること=新たな出資者を募ることです。しかし、巨額の累積赤字を抱えている会社に出資する=株式を持つということは、キズがついていることをわかっていながら商品を買うようなものです。よほど奇特な大金持ちでもない限り、出資してくれる人はいないでしょう。そして、そんな大金持ちは、コンサドーレの周辺には、いません。

そこで、次善の策として用いられるのが「減資」です。資本金を減らして、それを累積赤字の穴埋めにまわすのです。ここでいう資本金なるものも、実際に資本金相当額の現金があるのではなく、あくまで帳簿上の数字に過ぎません。

これらを建築物にたとえるならば、「資本金」は元の構造物、長年の使用で磨耗した部分が「累積赤字額」になります。債務超過というのは、もはや立っているのが不思議なほどに磨耗してしまった状態です。通常の磨耗(債務超過ではない状態)であれば、磨耗した部分を補修すればよいのですが(増資)、立っているのが不思議なほどの磨耗(債務超過)であれば、元の構造物そのものを細くすること(減資)で倒れないように処置を施すしかない、ということです。

■それなら早く減資すればよかったのに。

帳簿上の資本金は「1株あたりの価格×株数」の金額です。減資にあたっては、株数はそのままで、1株あたりの価格を下げることになります(その結果、資本金は小さくなる)。私の出した5万円が1万円の価値になってもどうってことないですが、多額の資金を出している企業等の場合は、そんな簡単なことではないでしょう。

これまた話を単純化すれば、5000万円の出資をしている企業の場合、5000万円の長期貯金をしていたつもりが、自分は何も悪いことをしていないのに、いきなり1000万円に減らされるようなものです。当初の出資を決めたときの経営陣の責任が問われかねないような話ですから、「減資するので応じてください」と言われたところで、「ああそうですか、わかりました」と、すぐに了解できるような事柄ではないでしょう。

いまやろうとしているのは、そういう、とても大変なことなのです。

■昇格のために減資するの?

端的にはそうなのでしょうが、減資によって、累積赤字を減らすこともできます。今回の報道によれば、HFCは資本金を80%減らすということですから、現在の資本金2,556百万円が、減資後には511百万円になり、減った分の2,045百万円を累積赤字の解消にまわせます。

昨年度決算での累積赤字は2,754百万円(27.5億円)ですから、この減資により、累積赤字は、709百万円(7億円強)にまで減らせることになります。

■でも、まだ、債務超過なんですが?

そうです。これでも、まだ、198百万円の債務超過です(今年度に黒字が出れば、さらにその黒字分だけ、債務超過額は減ることになります)。

減資しても債務超過が残る以上は、資本金を増やす(増資)しかありません。累積赤字があることには変わりありませんが、減資前に27億円以上もあった累積赤字を7億円強に減らしました、ここまで努力したので許してくださいと頭を下げて、新たな出資を募るのです。

各紙の記事によれば3億円程度の増資を目指すとのことですから、これにより、残る2億円弱の債務超過は解消されます。3億円を集めるのは簡単なことではありませんが、日経の記事では、石水勲氏が2億円までは出すと報じられています。

■累積赤字ゼロになるまで増資すればいいのに。

お金が集まりません(笑)。また、資本金を大きくしすぎると、税金が高くなるという問題があります。以前のように「これだけお金があるからまだ使える」という感覚になっても困ります(いまさらそんなことは起きないとは思いますが)。累積赤字の解消は、今後、考えなければならない課題として残りますが、まずは、資本金を取り崩すことなく、年度内の収入と支出が釣り合う形を確立していく(資本金はいざというときのために取っておくようにする)ことが重要です。

というか、今野の移籍金で大幅黒字になった2004年度はともかく、シーズン終盤まで昇格の可能性を残して戦えた2005年度(甲府に大逆転食らった年です)にも5500万円の黒字を出せているのだから、毎年の収支に関しては、それほど心配することではないでしょう(楽観もできませんが)。

■累積赤字があっても大丈夫なの?

累積赤字というのは帳簿上の数字に過ぎないので、HFCが内部にあるお金でまわっている限りは(銀行等からお金を借りようとしない限りは)、大きな問題にはなりません。

それより大きな問題は、減資→増資によって債務超過が解消しようが累積赤字が圧縮されようが、負債は減らないことです。すなわち、債務超過だの累積赤字だのといった事柄は、いわば概念であるのに対し、負債は、実際に借りたお金そのものです。借りた金は返さなければならないので、返済時期を先延ばししてもらうことはできたとしても、いずれ出ていくコストとしてつねに意識しておかなければなりません。

現状11億円余の負債をゼロにするためには、支出を削るよりも、収入を増やすことを考えたいです(<これは私の意見)。

HFCの昨年度決算での営業収入は11億円余、営業費用は15億円余です。支出を5億円減らしたら、選手・スタッフに対しては現状よりもかなり安い給料しか払えないことになり、戦力的にはものすごく厳しくなることが予想されます。

一方で、収入を5億円増やすことは、さほど非現実的だとは思えません。浦和レッズはスタジアムが大きいので参考になりませんが、札幌ドーム並みの収容能力のホームスタジアムを持つアルビレックス新潟の2005年度の入場料収入は、同年のコンサドーレよりも8億円も多いのです(コンサドーレの場合は厚別や函館、室蘭での開催もあるので、単純比較はできませんが)。

■で、結局、サポーターはどうすればいいの?

北海道経済が拡大するように、一生懸命、働きましょう。知恵を使い、体を使い、北海道全体の収益力を上げていくことが、コンサドーレの強化にもつながるのです。たくさん働いて札幌市や北海道にたくさん税金を納めれば、それがまわりまわってコンサドーレにも使われることになるでしょう。個人の所得が増えて消費が増えれば、スポンサーの数も、スポンサーが出す金額も、増えるでしょう(と、自分に向けて言い聞かせている今日このごろであります)。

もちろん、口コミでの新規客獲得や、チケット、グッズ等をせっせと買う行動を否定するつもりはありません。私自身も、それはそれで、地道に続けていくつもりでございます。

※わかりやすく書こうとしたら、かえってくどくなったかも。
※間違いがあれば、ご指摘くださいませ。

posted by issey11 |03:59 |