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2005年12月12日

『柏レイソル10年史』

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本日のサッカー本紹介は『DECADE 柏レイソル10年史』。2001年シーズン途中での西野朗監督の解任という、いわば負の歴史が当事者によって語られているところがとても興味深い。

柏は1999年のヤマザキナビスコカップで優勝、翌2000年はステージ優勝こそ逃したものの年間勝ち点では1位になった(同じ頃、ヴァンフォーレ甲府はJ2で2年連続の最下位だった)。確実にJの強豪へとステップアップしているかと思われたのだが、01年のファーストステージで6位に終わると(このとき、コンサドーレ札幌はなんとJ1で8位だった!)、98年以来指揮をとってきた西野監督を解任。01年のセカンドステージこそ7位でフィニッシュするも、02年は最終節までJ1残留争いに参加、03年は年間総合順位12位、04年は年間16位(最下位)でJ1・J2入れ替え戦に参加、そして05年はついに入れ替え戦に敗れてJ2降格が決定-と、まさしく坂を転げ落ちるように凋落してきた。

短期的にみれば、昨年のファーストステージ・アルビレックス新潟戦のロスタイムが…となるのだろうが、やっぱり、ポイントになるのは、西野監督の解任だろう。

同書の40ページ、01年ファーストステージ最終節について触れたページにはこうある。

「成績不振に憤ったゴール裏のレイソル・サポーターは応援を拒んで、ことりとも音をたてようとしなかった。その分、ごくわずかしかいない福岡サポーターの応援歌がよく響く。西野監督やフロントを中傷する横断幕が下げられた」

そして、その横断幕-「西野さん お疲れ様でした」「西野さん 夢をありがとう」-の写真が添えられている。

西野氏本人は、インタビューで、こう語っている(同書94~95ページより引用)。

「解任されたのは7月22日。娘の誕生日だから、よく覚えている。コーチ陣と第2ステージに向けてのミーティングをしていたら、フロントに呼ばれた。ミーティングが終わってからにしてほしいと答えたら、その前にと言うので、行ってみたら『お前も疲れただろう』と。全く予期していなかったことなので驚いた」

「開幕前に『ゲット・ザ・トップ』をキャッチフレーズにして優勝を狙っていたのだから、確かに6位では問題がある。でも、前年のオフに永久監督のつもりでやってもらいたいと言われ、僕も長期的な展望をもってステップアップしていきたいと考えていたのに、一体どうなっているのかという思いもあった。フロントはアレックス・ファーガソンやオットー・レーハーゲルの名を出して、日本にも長期政権があってもいいと言っていたのに、そのビジョンはどこへ行ってしまったのか」

その西野氏を解任した当時の強化部長・久米一正氏の発言は、インタビュー時にはすでに柏を離れていた(清水エスパルス取締役強化育成本部長の職にあった)気楽さからなのか、判断ミスであったことをはっきりと認めている。以下、同書97ページより引用。

「でも、いま振り返ってみると、あの解任は失敗だったと思う。あの年は西野監督-ペリマン・コーチの体制で通すべきだった。シーズン途中の監督交代はうまくいかない」

難しいな、と、思う。久米氏(あるいは当時のフロント)が成績低迷または西野監督解任という失策の責任をとって柏レイソルを去ったとしても、サポーターは柏レイソルから離れることができない。代替する製品やサービスがあればそちらに乗り換えればいいのだが、サポーターはそういうわけにはいかない。

『柏レイソル10年史』を最初に読んだときは、ずいぶんと思いきったことを載せるものだなあと感心していたのだが、柏の降格が決まった今、あらためて読んでみると、サポーター的には「そんなに簡単に振り返らないでくれよ」と言いたくなるんじゃないかと思えてくる(別に僕は柏サポーターでもなんでもないんですけどね)。

(本のデータ)
DECADE 柏レイソル10年史
 2004年2月20日 第1刷発行
 ISBN4-434-04119-3
 発行 株式会社文化工房
 発売 星雲社
 定価(本体2000円+税)


posted by issey11 |06:45 | フットボール本 |

2005年12月08日

読書感想文『オシムの言葉』

『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える』
木村元彦・著、集英社インターナショナル、ISBN4-7976-7108-4
2005年12月10日第1刷発行

『誇り-ドラガン・ストイコビッチの軌跡』『悪者見参-ユーゴスラビアサッカー戦記』と続いた木村元彦氏の著作は、サッカーを題材にしながらも旧ユーゴをめぐる政治・社会の話が前面に出すぎていた感があったが、本書では、オシムのサッカーとオシムの生い立ち、そしてオシムという人間を作りあげてきたものが何であるかが、バランスよく描かれている。オシムへのロングインタビューだけであれば、ここまで奥の深い作品にはならなかっただろう。

監督としてのオシムの言葉には、現在のコンサドーレ札幌、柳下正明監督の姿をオーバーラップさせたくなるところも少なくない。たとえば-

ただ、それより重要なのは、ミスをして叱っても使い続けるということだ。選手というのは試合に出続けていかないと成長しない。どんなに悪いプレーをした時でも、叱った上でそれでも使う。ミスをした選手を、それだけで使わなくなったら、どうなる?その選手はもうミスを恐れてリスクを冒さなくなってしまうだろう。いつまでも殻を破ることができない」(p.126)

私が思考するのは、観客やサポーターはいったい何を望んでいるのか、そして何が目的なのかということだ。(中略)私としては、いる選手がやれる最大限のことをして、魅力的なサッカーを展開したいと考えている。そういうサッカーを目指すには、リスクが付きものだ。(中略)すべての監督が大きなプレッシャーを感じている。ほとんどの人たちが、試合の内容よりも結果に注目しているわけだからね。やはりチームが負けないようなサッカーを監督は選択していくだろう。ただそういうことを続けていたら、残念ながらいい内容の試合は展開されないだろうね」(p.195)

要するに、この『リスクを冒す哲学』を、私個人だけではなく、千葉の選手たちと共有し、ともにやっていけるのかということだ」(p.196)

何がなんでも勝たなきゃいけない、とにかく目の前の勝ちを拾わなきゃいけない、というチームなら、こんなことは許されないだろう。守備を固めて、エメルソンとジュニーニョを連れてくればいいのか。いや、それでも、勝てばいいのかな。

オシムの本だというのに、最後は結局、なぜ柳下監督なのか、柳下監督のチームとどう付き合うべきなのか、なんてことを考えて、2003年や1999年の記憶を反芻して、付箋をつけたページへと戻って、オシムの言葉をふたたび読んだ。

木村元彦氏の「いい仕事」に感謝。


posted by issey11 |07:05 | フットボール本 |

2005年11月15日

『スポーツマンシップを考える』

児玉芳明社長が、昨日のブログ(コンサドーレが何倍も楽しめる社長日記)で、広瀬一郎氏の『スポーツマンシップを考える』(小学館、ISBN4-09-387572-3)の一節を引用していたと思ったら、今朝の日本経済新聞スポーツ面のコラム「スポートピア」の担当がまさにその広瀬氏。阪神タイガースの株式公開をあくまでスポーツの観点でとらえているあたりはさすがで、このコラムだけでも駅売り140円の価値はある。

広瀬氏の著作は、どちらかといえば会社経営的視点からスポーツ(主としてJリーグ)を俯瞰したものが多いのだが、この『スポーツマンシップを考える』は、かなり毛色が異なっている。きわめて平易な文章ながら、たくさんの考えるヒントが詰め込まれていて、スポーツをする人、見る人のいずれにも読んでほしい一冊。みなさんも、ぜひ。

ついでなので、サッカーを見るうえで、ぜひぜひ多くの人に読んでほしい本をいくつか(いずれも日本語のもの)。

まずは『オフサイドはなぜ反則か』(中村敏雄、平凡社ライブラリー=いまアマゾンで調べたら残念ながら在庫切れになっている<なんでしたらお知り合いの方にはお貸しします)。待ち伏せはずるいから反則ってわけじゃないんですよ、なんてことではなくて(まあその種のことも書いてはあるのだが)、フットボールがいかにして現在に至ったかが非常に丁寧に説かれていて、なぜルールを守らなければいけないのかがよくわかる(どうでもいいことだが、僕が最初に読んだときはたしか三省堂が版元だったような気がする)。

『フットボールの社会史』(F.P.マグーンJr.<忍足欣四郎訳>、岩波新書黄312)は、もうちょっと手ごわいけれど、そうはいっても新書なので、比較的手軽に読める。フットボールと暴力、サポーター論とか語るならぜひ読みましょう。

さらに掘り下げていくと『トム・ブラウンの学校生活』(トマス・ヒューズ<前川俊一訳>、岩波文庫)。古典だけど、ちゃんと日本語で読めるので心配ご無用(と書きつつ調べたら、これもアマゾンは在庫切れじゃないか<まったく)。どちらかといえばフットボールでもラグビーのほうの本なのだが、フットボールを語るならこれも欠かせない。

究極は『闘争の倫理-スポーツの本源を問う』(大西鉄之祐、中央公論新社<僕が持っているのは1987年刊の二玄社版)。これももはや古典の感があるし、これこそラグビー本なのだが(ついでに言っておくと僕は大西先生が教えているときにまだW大学の学生でありまして、卒業後、秩父宮ラグビー場で直接お話させていただく機会もありました)、すべてのスポーツに通じる名著だと思う。

以上を書くために、本棚の前で、小一時間、埃にまみれてしまった(笑)。せっかくだから、探し出した本をもう一度読み直して、このブログでちょっとずつ紹介してみましょうか(ホントにそんなことできるのか!?)。

というわけで、新カテゴリー追加決定!

※事実誤認などありましたら遠慮なくコメント、トラバくださいませ。


posted by issey11 |21:02 | フットボール本 |