2006年10月31日
【小説】居酒屋こんさどおれ 第八話
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません。 居酒屋こんさどおれ 第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話 第七話 第八話 それはどうかわからんよ
「それにしても日本ハムはすごいねぇ。コンサドーレとは随分差がついちゃったね」 山本さん(第一話、第七話参照)は1杯目のビールを飲みきってからそう言った。 「その話はもう聞き飽きましたよ・・・。別に日本ハムに恨みはないけど、いちいち比較されるのは正直そろそろカンベンしてほしいというか」 ゲンさんは山本さんの話に少々ゲンナリとしながら応えた。 北海道に移転してから3年、プロ野球の北海道日本ハムファイターズはとうとう日本一を手にしたのに対し、コンサドーレはJ1昇格の望みが断たれJ2中位で勝ったり負けたりを繰り返している。ある新聞には露骨に観客動員のことを「明と暗」なんて書かれもした。 「まあまあ、そう言わずに。でもね、比較されるのはしょうがないよ。私のようにどっちのファンでもない人にしてみれば日ハムは凄いけどコンサは全然だめだってのは当たり前のことだから」 「確かに、今コンササポが何言っても負け惜しみややっかみにしか聞こえないでしょうね」とゲンさんの言葉には力がない。 「でも、そのうちいいこともあるよ、きっと。チームがあればの話だけど」 山本さんのその言葉は励ましになってないんじゃないの、とゲンさんは思ったが口に出すのを止めた。それすら負け惜しみっぽいような気がしたからだ。 サポーターのお客さんと話しているときはゲンさんはこんなに弱気ではないのだが、どうも山本さんの前だと弱気になってしまう。そんな様子を感じたのか、山本さんは言った。 「でも、私の場合はどっちかと言えばコンサドーレ寄りかな。やっぱり先に出来たチームだし。それに、ゲンさんからかってるのが楽しいしね」 「ありがとうございます。私をからかいに店に来てくれるんならいっっっくらでもからかって下さい(笑)」 ゲンさんの表情少しゆるんだ。 「でも、まさかコンサドーレがこれから強くなったとして「ゲンのからかい甲斐がない」なんて言ってウチに来なくなるんじゃないでしょうね」 それを聞いた山本さんは二本目の焼き鳥を食べ終えてからこう言った。 「さぁ、それはどうかわからんよ(笑)。じゃ、今日もごちそうさま」 「あ、今日はもうお帰りですか。ありがとうございます。また、いつでも私をからかいに来て下さいね(笑)」 ゲンさんは山本さんの帰りを見送った。 頭の中にさっきの山本さんの「それはどうかわからんよ」というセリフが回っていた。 その頭にこびりついたセリフを洗い流そうと、ゲンさんは洗い物に取りかかった。
posted by たじ |09:28 | 小説 | コメント(0) |
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