スポンサーリンク

2006年05月29日

【小説】居酒屋こんさどおれ 第一話

この物語はフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません。

居酒屋こんさどおれ
第一話 笑顔

札幌市郊外、住宅街の雑居ビルの中にある「居酒屋こんさどおれ」。
その名前の通り、コンサドーレ札幌を熱烈に応援する主人の経営する居酒屋である。主人の名はゲンさん。なぜゲンさんというのかはわからないが、本人はえらく気に入っているようだ。カウンター8席に四人掛けのテーブル席が二つの小さな居酒屋は連日コンサドーレサポーターが集い、ゲンさんと共に侃々諤々とサポーター談義に花が咲く賑やかな店である・・・・つもりだった。脱サラして43歳にして居酒屋の主となったゲンさんだが、当初はそんな店にしたいと思っていたのだが、現実は厳しく、閑古鳥が鳴くとまではいかないが、数人の常連さんを相手に地味に営業を続けて2年になる。

そんな店だが、お客さんはコンサドーレサポーターだけというわけではない。店から歩いて2分、近所に住む山本さんは特別コンサドーレが好きだというわけではないが、勝敗くらいは気にかけているらしい。歳は50歳くらいだろうか。コンサドーレが負けた日の翌月曜日には決まって「居酒屋こんさどおれ」にやってくる。

「よお、ゲンさん、コンサドーレ弱いねー。また負けたじゃない」

店に入って来るなりこう挨拶するのが山本流。

「勘弁して下さいよ。ホント。ホントにヘンコでるんですから」

コンサドーレはこれで3連敗中なのだった。ニヤニヤしながらゲンさんの顔を見る山本さん。彼はこうやってゲンさんをからかうのが何よりの酒の肴なのだ。いつもビール2杯に手羽餃子、焼き鳥2本というのが山本さんのおきまりのコース。この日も約1時間ほどで上機嫌で帰っていった。

翌週の月曜日、店にやってきた山本さんの様子は少し違っていた。入口の扉をあけ、軽く右手を上げてゲンさんに合図したかと思ったら、無言でカウンターに座った。浮かない様子だった。

「あ、山本さんいらっしゃい。どうしたんですか、浮かない顔して。元気ないですよ」

山本さんはふっと溜息を一つ。

「まさかコンサドーレが勝ったからって不機嫌なわけじゃないでしょ?」

ゲンさんはちょっと笑って聞いてみた。コンサドーレは土曜日の試合で4-0と快勝していたのだった。もちろんゲンさんはこの日は上機嫌である。

「いやね、会社でちょっと問題が起こってね・・・それでゲンさんの顔でも見て元気づけて貰おうかななんて思ったのさ。土曜日コンサドーレ勝ったから、今日はゲンさん元気いっぱいだと思ったからね」

「もちろん元気いっぱいっスよ。もう土曜日からずっとテンションMAXですから。山本さんにもこのスーパーコンサドーレパワーを分けてあげますから。ま、とにかく乾杯しましょうか」

そう言って、ゲンさんは自分用のグラスにビールを注いで、グラスを右手に持ち山本さんの前にもっていった。

「なんだかわからないけど、とにかく山本さんが元気になりますように。カンパーイ」

カチリとグラスを山本さんと合わせたが、まだ少し山本さんのグラスを持つ手が力無く感じられた。

「ゲンさんは土曜日、試合見に行ってたんでしょ。どんな試合だった?」

「そりゃ、もう。とにかくこの試合は試合前からサポーターの気合いが違ってましたよ。もう絶対この試合は勝つって雰囲気でしたから。選手入場の時のコールがあんなに大音量なの初めてですよ。もう、私も興奮しちゃって。試合もね、選手の気合いがビンビンに伝わるわけですよ。で、1点目は・・・・・」

ゲンさんの話はハイテンションで続くのだが、その生き生きした表情を山本さんはカウンター越しに眺めていた。山本さんの表情はだんだんゆるんできた。

「やっぱり笑顔っていいね。ゲンさんはコンサドーレがあって幸せだねえ。さて、この一杯飲んだら帰りますか。明日から元気出していこうっと」

山本さんはそういうと、グラスの中に1/3ほど残っていたビールを飲み干した。そのビールはいつもより1杯多い3杯目だった。

posted by たじ |08:17 | 小説 | コメント(4) |

スポンサーリンク

スポンサーリンク

この記事に対するコメント一覧
Re:【小説】居酒屋こんさどおれ 第一話

こりゃまた変わったこと始めましたね。

posted by まじっく | 2006-05-29 21:02

Re:【小説】居酒屋こんさどおれ 第一話

たじさん、続きが早く読みたいです。

posted by ゆり| 2006-05-29 22:01

Re:【小説】居酒屋こんさどおれ 第一話

いいですね。こういう小説。床屋編とか喫茶店編、それにたこ焼き屋編なんかも作れそうですw。

posted by こんびに| 2006-05-30 12:31

Re:【小説】居酒屋こんさどおれ 第一話

>まじっくさん
手を変え品を変え(笑)
いろんな表現方法を使っていかないとネタ切れそう・・・・
中身が同じでも小説という形にすれば別のものに見えるんじゃないかな、とかそんな感じです。

>ゆりさん
ありがとうございます。週一程度のペースで数回は続ける予定です。

>こんびにさん
たこ焼き屋はリアルすぎて現実との区別がつかなくなる、というか、読んだ人に誤解を与えそうな気がします。
とりあえず第二話も居酒屋です。

posted by たじ| 2006-05-30 13:12

コメントする