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2010年03月03日

バンクーバー五輪女子フィギュアのこと(2)

なぜ真央の点数がヨナに比べて低いのか、具体的に考えてみます。ヨナの一番の得点源は演技冒頭の3Lz-3Tです。このジャンプは基礎点10点、そしてフリーでは出来映えの加点2が付いて12点。コンビネーションジャンプ一つで12点です。対して真央は3A-2Tのコンビネーションジャンプです。基礎点9.5点。あれっと思った人もいるかと思いますが、実は女子では真央の他に誰もできないという超高難度のコンビネーションジャンプがヨナのコンビネーションジャンプより基礎点が低いのです。出来映え加点は0.2で合計9.7点。なんとせっかくトリプルアクセルを跳んだというのに最初のコンビネーションの段階でヨナに2.3点も差を付けられてしまったのです。

これが現行ルールの問題点の一つです。フィギュアスケートのジャンプの点数は男子も女子も同じです。つまりトリプルアクセルというジャンプは男子が跳ぼうと女子が跳ぼうと点数上は同じ価値なんです。これは実際の競技者の視点で考えると大きな違和感があるのではないでしょうか。男子にとってはトリプルアクセルもトリプルジャンプの一つに過ぎないのですが、女子にとっては歴史上ほんの数人しかできない最高難度の技です。ましてコンビネーションを跳んだ真央は人類史上唯一の存在なのです。トリプルアクセルのレジェンド、あの伊藤みどりも女子がトリプルアクセルを跳ぶことの価値の高さを常々主張しています。その人にしかできない最高難度の技に対してはもっと点数を付けてもいいのではないか、男子と女子ではトリプルアクセルの価値が違うのだから点数を変えてもいいのではないか、という議論があるのは当然のことのように思います。これはあの男子の四回転論争にも根底では通ずる考え方です。

更に言うと、ヨナの3-3のコンビネ-ションに加点が2に対して真央の3A-2Tの加点が0.2点ということも問題です。女子にとってトリプルアクセルはランディングできるだけでも凄いことなのに、男子並みのクリーンジャンプを跳ばないと大して加点にならないというのはあまりにも女子選手には酷。結果としては真央のトリプルアクセルは大技のわりにルール上は得点の稼げない技というのが実態です。

ではなぜ真央はそんなハイリスクローリターンなトリプルアクセルにこだわるのでしょうか。それは本人が自分の一番の武器、自分のアピールポイントだと思っているというこだわりももちろんありますが、それ以外にもルールの変更に真央がうまく対応できなかったという理由があります。
その一つ目はルッツ。ルッツジャンプとフリップジャンプのエッジ判定が厳格化されました。ルッツはアウトエッジ踏切なのですが真央のルッツはインエッジで踏み切る癖がありました。そのためエッジエラーで減点されることになり、当初はルッツジャンプの修正に取り組んでいた真央ですが、どうしてもエラー判定をうけてしまい、最終的にはルッツをプログラムから外すという決断をせざる得なくなりました。
二つ目は回転不足判定によるダウングレードを厳しく取るルール変更。真央はもともと3-3のコンビネーションも跳んでいましたが、セカンド3Loがどうしてもダウングレードを取られてしまい、結果としては高得点を狙うコンビネーションは3-3ではなくて3A-2Tにするという決断をすることになりました。ルール自体は公平なのですが、このルール変更は真央の弱点をねらい打ったような印象がないでもありません。

ちなみに、ルール変更による直接の不利益ではないですが、真央にはもう一つ、サルコウジャンプが苦手だという弱点があります。真央はサルコウもマスターするために随分と取り組んできたのですが、試合での成功確率が五分五分くらいなので、これもまたプログラムに入れることを諦めました。結果としてプログラムに組み込めるジャンプの種類が限られてしまい、トリプルアクセル中心のプログラム作りをしなければならなかったのです。

対してヨナもフリップジャンプがエッジエラーっぽく、また3-3のコンビネーションもセカンドジャンプが回転不足気味だと指摘する声もありますが、実際にはジャッジから見逃されて減点されていないことが多いというのは事実でしょう。「ヨナの3-3はクリーンで完璧」。もしジャッジがこういう先入観を持っているならばエッジエラーや回転不足が見逃されてしまうということは大いに考えられます。こういうことがあるから採点競技においてはロビー活動というのが非常に大切であり、チーム・ヨナは見事にそれをやり遂げたという事なのだと思います。(続く)

posted by たじ |08:41 | コメント(0) |

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