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2010年02月22日

4回転論争

フィギュアスケートの男子シングルが終わりました。優勝はエバン・ライザチェク(米)。そして優勝候補の本命と目された帝王プルシェンコ(露)は惜しくも2位でした。

そんな中で俄に注目されることとなったのが4回転論争です。プルシェンコは「男子は4回転ジャンプにチャレンジすべき」との持論の持ち主であり、大会期間中も終了後も4回転の是非についての論争となりました。優勝したライザチェクは4回転ジャンプはプログラムに入っていなかったのですから、表面的にはプルシェンコの発言はライザチェクを直接批判しているように聞こえてしまいますが、これはもう随分前から一貫してプルシェンコが訴えてきた持論です。

この議論は「ジャンプか芸術性か」という問題ではありません。フィギュアスケートがスポーツである限りは、基本的には技術は進歩発展して行くべきだと思います。2002年のソルトレイク五輪、プルシェンコとヤグディン(露)が凌ぎを削っていた頃まではトップ選手はプログラムに4回転を入れるのは当たり前の事でした。それから8年。現在は4回転はジャンプの得意な選手はプログラムに入れるけど、得意でない人は無理してプログラムに入れる必要はない、という状況になってます。プルシェンコはこの状況を競技が退化していると考えています。例えば体操で昔はウルトラCなんていってましたが今は難度がFとかGとかです。月面宙返りなんて中学生の体操選手でもできる技になってます。スポーツである以上そのように「昔は高難度と思われていた技が今では当たり前の技になっている」というのが自然な流れです。つまり4回転がいつまでも高難度の技という位置付けであってはならない、男子ならばプログラムに入れて当然という技になってこそフィギュアスケートの進歩、発展なのだとプルシェンコは主張しているのです。決してジャンプ重視とか、大技に挑戦すべきだという主張ではなく、その意味するところは私も賛成です。

ではなぜ現状4回転を跳ばないチャンピオンが生まれるのか。その要因は今の採点方式にあります。簡単に言うと4回転を転倒した時のリスクが大きいことや、3回転でもGOE(技の出来映えの点数)の加点をもらえば4回転と大きな差にならないということ、つまり4回転はハイリスク・ローリターンな技なのです。なぜこんなルールにしてしまったのかは私にはわかりませんが、採点方式のルールを変更することで現状は変えていけることのように思います。例えばショートプログラムのジャンプの一つを4回転に指定にするとか、プログラムに4回転が入っていなければ何らかのマイナスにするとか。単に4回転の得点を高くするというのではなく、要は「4回転をプログラムに入れるのがあたりまえ」な方向にルールを模索していく必要性があると思います。この4回転論争に限らず、現行のルールには不満を感じる部分が多く、かなり大がかりな見直しが必要だと私は思っています。

基本的にはプルシェンコの主張には私は賛成なのですが、今回のオリンピックの結果自体は妥当なものだと思っています。プルシェンコが銀メダルというのは演技内容からしたらやむを得ません。やはり3年もブランクがあったため、今回のプルシェンコは彼の本来のベストパフォーマンスからはほど遠かったと思います。彼は残念ながら自らの主張の正しさを自分の演技で証明することに失敗してしまったと言えるでしょう。実際今回の演技でも4回転を1度ではなく2度跳ぶとか、コンビネーションを4-3-3にするとか、彼の技術力をもってすれば高得点を出す方法はいくらでもあったはずです。それとプルシェンコが「技術の進歩」を言うのであれば、4回転トゥループだけではなく4回転サルコーや4回転ループなどもマスターしてほしいところでした。ブランクが3年有ったから新しいことに取り組む余裕は無かったのかしれませんが。

ところでライザチェク。なんだか気の毒です。なまじ金メダルを取ってしまったためにプルシェンコの批判を浴びる格好になってしまいました。彼は自分のできる事を完璧に遂行して見事に金メダルを取りました。最後のスピン中にガッツポーズをするというのも印象的でした。得点を競う競技なのですから、自分のできる範囲でルールに照らしてどうすれば高得点を出せるかという戦略を練って、それを遂行するというのは当たり前のことです。ライザチェクが批判を受ける理由はどこにもありません。

問題はルールが果たして妥当なのか、フィギュアスケートの将来に向けてルールはどうあるべきなのかということです。より高い技術により高い得点が与えられ、且つ見ている人の印象と得点に大きな乖離が生じないというのが理想でしょう。ただ、そういうルールを作るのが難しい。ルール、採点方法は毎年少しずつ変わってきています。どことどう見直すかということは見ている観客の意識というのが反映されるものだと思いますから、今回の4回転論争というのは今後のルール作りに何らかの作用を与えることは間違いないことでしょう。

posted by たじ |16:39 | コメント(0) |

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