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2010年02月01日

中野友加里(2)

2006年の世界選手権はトリノ五輪金メダルの荒川、銅メダルのスルツカヤが出場しないということで、世代交代の大会となりました。金メダルはアメリカの新星16歳のキミー・マイズナー。村主が2位に入り、初出場の中野友加里も5位と大健闘、世界のトップスケーターの仲間入りです。

そして2006-2007シーズン、2007-2008シーズン。この2シーズンが中野友加里のキャリアのピークでした。2006年の全日本で3位にはいると翌年の東京での世界選手権は5位。その翌シーズン、2008の世界選手権は過去最高の4位と後僅かで表彰台というところまで迫ったのです。特にこの世界選手権のフリーの演技は中野の競技人生史上最高の演技だったと思います。ショートプログラムを3位と表彰台圏内で迎えたフリーは最終滑走者です。この時点で1位浅田真央、2位コストナー(イタリア)、3位キム・ヨナ(韓国)。この大会は浅田真央がトリプルアクセルを跳ぶ前に転倒するなど、上位選手にミスが目立っていました。そんな中で中野は会心の演技、課題のトリプルアクセルも見事着氷し、ノーミス(に見える)で演技を終わりました。演技終盤には会場全体でスタンディングオベーションです。スウェーデンでの大会でしたが、まるでホームのように中野に対して大賛辞が贈られました。この演技なら表彰台は確実だろう、ひょっとしたら金メダルもあるかも・・・そんな会場の雰囲気の中で発表された得点は116.30、順位は4位。会場全体が一斉にブーイングです。本当に素晴らしい演技で会場を沸かせたのですが、表彰台に乗れなかったのは本当に残念でした。

中野の演技は安定感があるところが長所です。一つ一つの要素に安定感があり、大崩れしないので、終わってみればそこそこいい得点、いい順位にいるというタイプです。逆に欠点は大きな得点源がないことと加点がもらいにくいことです。トリプルアクセルは「過去に成功したことがある」というレベルなので実際には得点源にはなりません。確かにドーナツスピンは世界一美しいのですが、それでそんなに多くの得点を稼げるわけではありません。そして中野のジャンプには「巻足」と呼ばれる癖があります。ジャンプを跳んだ時に足が4の字のようになる癖で、出来映え点が低く抑えられがちです。つまり、中野は世界の上位まで来るものの、表彰台に上がるにはもう一歩足りなかったと言えます。
実際、2008世界選手権のフリーの演技の得点詳細を見てみると、上位3人はいずれも3回転-3回転のコンビネーションジャンプを跳んでいて、一つの技で10点以上稼ぐ得点源がありました。それに対して中野は3T-2T-2LOの7.48点が最高。また、やはり巻足が問題のようでジャンプの加点がほとんどもらえていません。そして演技冒頭のトリプルアクセル、演技後半のトリプルフリップはいずれも回転不足判定で大幅減点されています。いずれもスローで見なければ回転不足かどうかわからないような、微妙なものでした。観客からはミスはなかったように見えたことでしょう。わずかな回転不足で大幅減点をするというジャッジシステムにも泣かされた格好です。それでもこのフリーの演技はPCS(演技構成点)では浅田真央に次ぐ2位の得点を獲得し、2年間世界のトップレベルで活躍してきた中野の演技のクオリティがようやく評価されるようになった、表彰台はもう目の前だとこの時は感じました。

バンクーバー五輪に向けて順調にキャリアアップしてきた中野ですが、翌2008-2009年シーズンは急に影が差し始めます。グランプリシリーズ初戦のアメリカ大会2位はよかったのですが、NHK杯はこのシーズン急成長した鈴木明子が2位で中野が3位となり、この時から鈴木明子がバンクーバー五輪の出場争いの強力なライバルとなります。2008年末の全日本、中野はショートを終わってトップと絶好のスタートを切ったのですが、フリーではミスを連発。あれだけ安定感のあった中野の演技の歯車が狂ってしまったようで結果は5位。この結果を受けて、1位浅田2位安藤3位村主の3人が世界選手権代表、4位に入った進境著しい鈴木明子が四大陸選手権代表になり、中野はユニバーシアードに回りました。このことで中野は世界の舞台でアピールする機会が減ってしまい、バンクーバー五輪出場に暗雲がかかり始めた、そんなシーズンになってしまいました。

そしていよいよオリンピックシーズンを迎えました。昨シーズンに引き続き、中野の演技から安定感が失われたままで苦しいシーズン序盤です。グランプリシリーズは3位と4位でファイナル進出を逃してしまい、バンクーバー五輪代表になるには全日本選手権で活躍することが最後のチャンスです。ここで今回の五輪代表選考基準をおさらいします。

① グランプリ・ファイナル3位以内の日本人最上位者
② 全日本選手権優勝者
③ 以上の後、残る派遣枠については、
a 全日本選手権3位以内の者
b グランプリ・ファイナル進出者
c 全日本選手権終了時点でのワールド・ランキング日本人上位3名
を選考の対象とし、競技会での獲得ポイント、演技内容、ワールド・ランキング等を総合的に比較して、選考する。

全日本選手権開催前の時点で安藤美姫が①の基準で内定済み。残る2人の代表枠を浅田真央、鈴木明子に中野友加里らが争う格好となってます。ただ、鈴木は③のbとc、浅田は③のcの基準を満たしているのに対し、中野は③の基準を満たしてなく、aの基準、つまり全日本3位以内に入ることがバンクーバー五輪代表選考の絶対条件です。

そして運命の全日本選手権。上位の4選手はみな素晴らしい演技でショートプログラムを終わった時点では誰が優勝するか全くわからない大混戦となりました。

2009全日本選手権SP順位
1.浅田真央   69.12
2.中野友加里 68.90
3.安藤美姫   68.68
4.鈴木明子   67.84

1位から4位までかわずか1.28点差という大混戦。中野も1位にわずか0.22点差で2位と好位置につけます。そして翌日のフリー、中野は最終グループの第1滑走です。緊張感の中、最初のルッツジャンプでステップアウトがあったもののその後は立て直して見事に滑りきりました。ここ2シーズン、なかなか満足のいかない演技が多かった中野ですが、このフリーの演技は本人もかなり手応えがあったのではないでしょうか。フリー126.38点、トータル195.73点と高得点であとは天命を待ちます。続く安藤美姫は既に内定が決まっていたことがモチベーションに影響したのか、演技に冴えがなく点が伸びません。浅田真央は武器のトリプルアクセルが決まり、一気に得点を伸ばして204.62点で断然トップ。この時点で1位浅田、2位中野、3位安藤。残る鈴木明子の演技に全てがかかってきました。鈴木はステップで躓いて転倒というミスがあったものの、観客を魅了する元気いっぱいの演技で滑りきりました。

最終結果
1.浅田真央   204.62
2.鈴木明子   195.90
3.中野友加里 195.73
4.安藤美姫   185.44

僅か0.17点鈴木が中野を上回り2位に。中野は3位となりました。優勝した浅田は②の基準で代表内定。中野は全日本3位以内なので辛うじて③-aの基準で選考対象に残りましたが、代表3番目の椅子は鈴木明子が獲得。昨シーズン及び今シーズンの成績を考えるとこれは仕方のない結果なのかもしれません。ただ、もし最後の全日本で鈴木との順位が逆だったらとても悩ましい選考になっていただろうなと思います。

一時は世界の表彰台にあと一歩のところまで辿り着いた中野友加里。バンクーバーではメダルも期待される一人だったはず。もし2008年にオリンピックがあったなら・・・タラレバ言ってもしょうがないのですが、4年に1度のオリンピックがキャリアのピークと一致しない巡り合わせの悪さで涙を呑むというのは本当に気の毒でなりません。本人「オリンピックを目指すのは今回で最後」と明言していますし、残念ながら彼女はオリンピックに縁がなかったということなのでしょう。
ちなみに中野は今シーズンの最後、世界選手権の代表に選ばれています。五輪直後の世界選手権は五輪上位選手が欠場する可能性もあり、中野にとってはメダル獲得のチャンスだと思います。今まで最高4位でしたから、この世界選手権でぜひともメダルを獲得してほしいと思ってます。

posted by たじ |10:42 | コメント(0) |

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