コンサドーレ札幌サポーターズブログ

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2008年06月19日

<第2話> 目を開けたら

【目を開けたら】

私は朝風呂に入る習慣がある。
夏など暑くて激しく汗をかいた日は夜も入浴するが
基本的には休日を含め毎朝入っている。

その日もいつものように朝風呂に入った。

目をつぶって洗髪し、タオルで顔を拭いて目を開けようとしたが
ついでに目をつぶったまま洗顔も済ませた。

もう1度タオルで目周辺の水分をタオルで拭い目を開けたら………



そこは……

幼い頃いつも1人で遊んでいた実家の裏から50mほど離れた所にある小さな沼だった。
そして私は自分の姿が見えない。だが情景は見えている。
まるで魂とか精神だけがここへ飛んできたような感じだ。

沼のほとりに目をやると、小学校へ入る前…… 5歳くらいの少年が
1人で沼に石を投げている。
近づいてみるとその少年は40数年前の私自身だった。


この地に引っ越して以来、近所には一緒に遊ぶような子がいなかった。
9歳まで1人っ子だった私は小学校へ上がるまで
毎日こうして1人遊びをしていたのだ。
私はけなげに1人で遊んでいる自分自身を見て、とても可哀想に思えてきた。

今度は家に行ってみることにした。
そう思っただけで、私の目は実家の玄関先に瞬間移動した。

母がミシンで何か縫い物をしていた。
すると……

「来たのかい?」と言う母。
私は幼い頃の自分が沼から戻って来たのだと思い、後ろを見た。だが誰もいない。
「何やってるの?上がりなさいよ。自分の家なのに」 と苦笑いする母。
私は思い切って母に語りかけた。「母さんは僕が見えているのかい?」
まだ30歳前後の母は少し笑いながら 「見えるさ」 と答えた。

母 「今は結婚して子供はいるのかい?」
私 「ああ、いるよ。もう上の娘は25歳。もう1人は息子で23歳だよ」
母 「そうかい。それは良かった。たまにはここへ来ているのかい?」
私 「家族4人で行くことはないけど、娘も息子も、そして僕も各々たまに来ている」
母 「ふ~ん。それは嬉しい話だねぇ。父さんも喜ぶよ」

私は、自分でさえ見えない私自身の姿が
どうして40数年前の母に見えているのか不思議で仕方なかった。
でも何だか心が安らぐ気分だった。

私は平屋で3つしかない部屋を散策してみることにした。
そしてガラクタだらけのオモチャ箱を見つけた。
その中に、自分で分解してしまったブリキの蒸気機関車があった。
それをずーっと見つめていると、急に意識が遠のいた。



ドンドン!とドアを叩く音が聞こえる。
「父よ!このままだと仕事に遅れるけど大丈夫かい?」 という低い声。
私は手に持っていたタオルで顔を拭き、目を開けてみた。
自分の家の浴室に戻っていた…… というより最初からここにいたのだ。

ほんの10数分 (時計で確認した)、私が行って来た私自身の過去。
単純に気を失って夢を見ていたとは到底思えないが、信じられない思いもある。


私は職場に着くなり、実家の母に電話をかけた。

私 「あのさ、僕が5歳くらいの頃、40を過ぎた僕が訪ねて行ったとか
  そんなことは無かったよね」
母 「ああ、来たよ」

--- END ---

posted by hiroki |18:07 | 空想短編集 |