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ザリオ(2)

2007年06月07日

 いつもよりちょっとだけ遅く起きた。久しぶりの家族全員の朝ご飯。今日から僕は2連休。
ただし曜日は火曜、水曜。息子は学校があるし、嫁は仕事だし、僕にはこづかいがないし。
息子を送りだして、嫁がスポーツジムへ行ってから僕がお昼ご飯を作るまでの間、しばし
のフリータイム。くわえ煙草で裏庭の畑に水を撒き、アリバイ程度に雑草を抜くともう
特別する事もなく。

 まあ昼ご飯は久しぶりにスパゲティを作るとして、生パスタを練るには残った時間
では腰もツヤも望めない。新札幌のキャロットにパスタとトマト缶を買いに行っても1
時間強の時間がある。もう誰も使っていないだろう、iMac(初期型)のパワーボ
タンを押して、googleトップ画面に「ニホンザリガニ」と打ってみた。時間びっちり
調べたおおよその結果が下。

・日本固有かつ唯一のザリガニである。
・北海道、青森、岩手、秋田のみに生息。
・冷たいきれいなの中で泥に穴を掘ってひそむ。
・餌は水の中で朽ちた広葉樹の落ち葉、昆虫など。
・体長は5~7cm。
・成体になるまでに自然下では約5年が必要。
・絶滅危惧II類(VU)
・飼育、繁殖は極めて困難。

 調べるにつれて心中はどんどんあせり出した。まさか絶滅危惧種とは。野生絶滅種
の2つ下のカテゴリーだ。円山動物園なんかに相談した方がいいのだろうか?しか
し今でもいるところにはいるものらしいし....。
 悩んだ。本当に悩んだ。頭ごなしに元の場所へ返してこいと言った方がいいんじゃ
ないだろうか、とも。

 しかし、結局僕はその決定を息子に委ねることにした。彼が虫や小さな生き物に興
味を示しだしてもう4年。可愛いもの、気持ち悪いもの、手に負えないもの。いろ
んなものを捕まえてはカゴに入れて持ち帰ってきた。その度に一緒に世話したり、面
倒を見ないから捨ててこいと言ってみたり、ほどなく死んでしまったり。親の許容範
囲の中で虫達を受け入れてきた。彼は興味本位でそれらを連れてくるだけだ。そろ
そろ自分で考えさせてもいいのではないか?それでなくても今度のザリガニはどこに
でもいるものではないことくらい彼も判っている。自分で考えさせて行動させる事で
もうちょっとおにいちゃんに成れるんじゃないだろうかな、と。

 ニンニク抜きのトマトソースを煮込みながら僕はそこに考えが落ち着いた。今、
僕が知りうる情報を噛み砕きながら彼に全て教えて、彼が判断する。その判断を尊重
して、もし飼うのなら僕や嫁が世話をするのではなく彼のザリガニの世話をできる限
りフォローする。飼わないのであれば何故飼わないのかの動機をしっかり確認して、
これからの彼の虫ライフに活かしていけばいい。

普通の2人前のスパゲティを頬張りながら、嫁は同意してくれた。
普通の3人前のスパゲティを平らげて、僕はどう話をしたものかと考えていた。


ザリオ(1)

2007年06月07日

 家に着いたのは午後9時を回った頃。
鼻からため息をつきながら玄関を開けると、虫カゴやら花瓶やらで雑然とした
下駄箱の上に見なれない容器がある。水が張ってあるその味海苔の容器。お
そらくまた息子が何か捕まえてきたのだろう。
 口から出る「くたびれた」の言葉を軽く飲み込みながら代わりに「ただいまー」
なんて言ってみる。バスタオルで頭を拭きながら息子がニコニコしながら飛び
出してきた。
「とうちゃーん、見てー。ザリガニー」
 彼は嫁方の両親にとって初孫。そして近隣に住む血縁の中で初めての男の子と
いうことで、その可愛がりようはとてもありがたいもので、彼が我が家に持ち込
みを禁止された一部の虫は全てここから車で5分ほどの嫁の実家に図々しくも置
かせて頂いている。義父が買い与えたザリガニだろうか。もしそうなのであれば
ここ最近の流れなら「おたまじゃくしもいるんだから云々」ということでザリガ
ニは実家に置かれてしかるべきなのだが。
容器を覗き込むと、そいつは変に小さい。
「すごいでしょー。森のあの沼でヨコエビすくってたら入ってたの、ニホンザリガニ」

 ニホンザリガニ。それって北海道にはいないんじゃないのか?だが小学2年
生とは思えないくらい虫の類いには精通している息子が言うのだから、きっと
おそらくそうなのだろうなあ。
僕は札幌の新琴似という地区で育った。
もう30年以上前の家の近くには防風林という屯田兵が風よけにこしらえたベ
ルト状の林があり、その中に使われなくなった用水路があったので大概の虫の
類いにはお世話になった方だと思う。どじょうやトンギョやゲンゴロウなんか
は採ったけどザリガニなんかいなかったなあ。
 今住んでいる厚別区はかつては野幌の原始林の続きみたいなところだった
らしく、確かに今でも住宅街をちょっと外れるとオニヤンマやら糸トンボなん
かがうようよ飛んでいる穴場があるのは知っていた。まさかザリガニまでいる
とは意外だった。
 めずらしいねえ、良く捕まえられたねえと息子の頭をごりごり撫でながら、
ザリガニに興味津々だったのは息子よりもむしろ僕の方だった。連続勤務の疲
れも忘れて長々と水槽の中で水をかき回すザリガニを子供の頃に買ってもらっ
たアメリカザリガニの記憶と比べながら眺めていた。

長いような短いような僕と息子とザリガニの話はこんな風に始まりました。